2018 Fiscal Year Research-status Report
Toward a Constructive View of Narrative Theory Based on the Development of Intertextual Approaches to Literary Texts Since the Last Decades of the Twentieth Century
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17K02539
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80154516)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 物語理論 / 批評理論 / 想像力 / 多様性 / 間テクスト性 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀に書かれた虚構テクストを研究対象とし、物語言説がどのようにして構築されるかにかんする理論的知見に達することを目的とする本研究においては、文学研究、文学批評の基盤であるとともに、人文科学の根源とも称すべき精読の方法に立ち返るとともに、そこに附随せざるを得ない限界を乗り越えて、新たな展開への突破を図ろうとしたポスト構造主義、脱構築主義以降の理論的成果をも視野に入れつつ、文学的テクストと、同時期における科学的、批評的言説とは別次元に位置づけられるべきものではないという明白な事実に改めて眼を向け、批評史全般に及ぶパースペクティヴを得ることが目差されている。その過程においては、今日、人文科学各分野(エスノメソドロジー、認知言語学など)において盛んになされている物語をめぐる議論とも関連づけることのできるような問題提起、特に想像力の働きにかんする新たな洞察なども副次的な成果として期待される。 上記のような目的を念頭に置きつつ研究代表者(鈴木聡)が単独で遂行する計画であることから、研究代表者のもとに基礎資料をなるべく網羅的かつ継続的に蒐集することが必要であった。それらの資料の蓄積にもとづき、またそれらを詳細かつ入念に読解する日常的な努力をつうじ、着実に研究を進捗させ、各段階で論文を執筆し発表することとした。具体的にいえば、平成30年度においては「運命と意識──ヴラジーミル・ナボコフの『ユリシーズ』論」と「布置と調和──ヴラジーミル・ナボコフの「雲、城、湖」」という二篇の論文を発表した。前者においては、ナボコフがコーネル大学において行なった授業の一部を構成する、ジェイムズ・ジョイスの長篇小説『ユリシーズ』を取りあげた講義の内容が取りあげられ、後者においては、ナボコフの最初ロシア語で執筆し、のちに英語訳された短篇小説中の一篇が扱われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに、ナボコフがコーネル大学において行なった講義中で取り扱われた七作品のうち、六作品(ジェイン・オースティン『マンスフィールド・パーク』、チャールズ・ディケンズ『荒涼館』、ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』、ロバート・ルイス・スティーヴンソン『ジーキル博士とハイド氏の奇妙な事件』、マルセル・プルースト『スワン家のほうへ』、フランツ・カフカ『変身』)について論じてきた実績にもとづいて、研究代表者(鈴木聡)は、平成30年度に「運命と意識──ヴラジーミル・ナボコフの『ユリシーズ』論」と題する論文を執筆した。これによって、19世紀から20世紀にかけての西ヨーロッパの虚構テクストの展開にかんして、ナボコフが呈示する概観を把握することが可能となったと考えられる。ギュスターヴ・フローベール以降の長篇小説の伝統に立脚しつつ、特殊と普遍の共存という新たな地平を実体化することに成功した稀有なテクストである『ユリシーズ』においては、20世紀初頭のアイルランドにおける反ユダヤ主義などの反動的思潮と対比されるようにして、個人による気遣いが重要な主題となっている。その点は、研究代表者が平成30年度に発表したもう一篇の論文、「布置と調和──ヴラジーミル・ナボコフの「雲、城、湖」」において取りあげたナボコフの短篇小説「雲、城、湖」(1937年、1941年)などとも関連していると見ることができよう。体制や秩序によって押しつけられた価値観と別のところで、場合によってはそれと対立するようにして、個人はいかにしてみずからにとっての幸福と調和を希求するかということは、20世紀文学の多くに共通する課題である。今後は、その点をマルティン・ハイデガーのいう「気遣い」(Sorge)の概念なども視野に入れつつ、より深く考究することが必要となってくるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度にもこれまでと同様、二篇の論文を執筆することをめざす。本研究の主たる目的に照らしてみて、虚構テクスト全般にかんする系譜学的考察をよりいっそう網羅化することが不可欠であると考えられるため、過去数年に亘って取り組んできた、コーネル大学におけるヴラジーミル・ナボコフの講義内容の読解と分析を基盤としつつ、通史的ヴィジョンを全体的に把握する可能性を模索する。年度前半にはまず、ナボコフがハーヴァード大学で行なったミゲール・デ・セルバンテスの長篇小説『ドン・キホーテ』(1609年、1615年)にかんする講義を取りあげ、作品自体について詳しく検討するとともに、ナボコフの論点、彼が既存の批評に見いだしている問題点などについて考察する。上述した研究と並行して、五十数篇あるヴラジーミル・ナボコフの短篇小説のうち数篇についても、これまでに論文を執筆してきたが、まだ論じていない作品のうちに、想像力理論、物語理論の全体的構想にかんする示唆のみならず、20世紀の虚構テクストが同時代の批評理論の動向と決して無縁なものではないことを窺わせる手掛かりが認められることから、今後も堅実な読解を進めることとする。当然のことながら、それらの作品にかんする研究書、研究論文は多く存在するため、必要に応じて、伝記、書簡、日記などの基礎的資料を含めて網羅的かつ系統的に入手する計画を立案する。専門分野以外の知見を積極的に取り入れる必要があることから、研究目的達成のために有益と考えられる日本ナボコフ協会の全国大会、研究会のほか、日本英文学会ならびに同学会関東支部会その他の学会にも出席する。年代の古い文献、稀覯書などについて、他機関所蔵の資料を閲覧、複写する場合があるが、複写にあたっては、著作権にじゅうぶん配慮し、流出することがないよう最大限注意する。
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Causes of Carryover |
書籍単価が見込みよりも安かったため残額が生じた。次年度で精算される予定である。
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Research Products
(2 results)