2017 Fiscal Year Research-status Report
「見ること」を中心とする、ピンチョン小説における認識論の残余についての研究
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17K02545
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石割 隆喜 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (90314434)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ピンチョン / ミメーシス / 映画 / 心的表象 / 重力の虹 / ウルフ / ポストモダニズム / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は『重力の虹』を研究対象として取り上げた。具体的には、平成28年12月に行われた日本英文学会関西支部第11回大会で発表した論考「映画的ミメーシス--Gravity’s Rainbowにおける現実の表象」を論文へとまとめるかたちで、同作品における「見ること」の特質を明らかにすることを試みた。その特質とは、語り手がなりきる映画スクリーンを介した本作の現実表象の、意識に映じる印象を介したモダニズム小説の現実表象との類似性である。違いは、現実を直接表象する媒体が意識(ヒト)からスクリーン(モノ)へと変わっていることだけである。現代の心の哲学の成果をふまえ、意識を心的表象の場として捉え直すことで、同じく表象の場であるスクリーンとの類似性が明らかとなる。と同時に、『重力の虹』の現実はスクリーン上に投影された現実ならぬ〈現実〉であり、この投影により真の現実を「見る」という姿勢が、「見ること」をめぐる小説としての同作の特徴であることが浮き彫りとなった。 また平成29年度は、『ヴァインランド』をやはり映画をめぐる小説として捉え、同作を『重力の虹』と比較するための研究にも着手した。『重力の虹』とは異なりドキュメンタリー映画を中心に据えた『ヴァインランド』の「見ること」の特徴を考察する研究発表を、平成30年5月の日本英文学会第90回大会で行うことが決まった。加えて、平成30年1月にシカゴで開催された2018 MLA Annual Conventionに参加し、最新の研究動向についての調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ピンチョン作品そのものの研究という点では、本研究は当初の計画よりも順調に進展しているといえる。しかしながら、2018 MLA Annual Convention のための海外出張が1月と年度末に近く、帰国後の旅費の精算にやや時間がかかったこともあり、周辺分野、特に心の哲学、意識研究、認知科学関連の文献の精査ならびに収集を行うことがほとんどできなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
上記と重なるが、ピンチョン作品そのものの研究という点では、本研究は当初の計画よりも順調に進展しているといえる。しかしながら、周辺分野、特に心の哲学、意識研究、認知科学関連の文献の精査ならびに収集を行うことがほとんどできなかった。したがって、今後はこの点での遅れを取り戻しながら、全体として当初の計画通りのペースとなるよう研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
2018 MLA Annual Convention のための海外出張が1月と年度末に近く、帰国後の旅費の精算にやや時間がかかったこともあり、周辺分野、特に心の哲学、意識研究、認知科学関連の文献の精査ならびに収集を行うことがほとんどできなかったため。この次年度使用額を物品費として使用するとともに、当初の年度計画にしたがった支出を行うことで、次年度は適切な支出を計画している。
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Research Products
(1 results)