2018 Fiscal Year Research-status Report
「見ること」を中心とする、ピンチョン小説における認識論の残余についての研究
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17K02545
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石割 隆喜 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (90314434)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ピンチョン / 重力の虹 / ヴァインランド / 映画 / リアリズム / Drew / Newsreel / バザン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、まず、トマス・ピンチョン作『重力の虹』における「見ること」の特質を明らかにするという前年度の研究の成果を論文「映画的ミメーシス--Gravity’s Rainbowにおける現実の表象」(『大阪大学大学院文学研究科紀要』第59巻)にまとめた。 同年度はまた、前年度に着手した『ヴァインランド』研究のひとまずの成果として、同作に関する口頭発表「光は暴く--Vinelandにおける映画的リアリズム」(日本英文学会第90回大会)を行なった。本発表は、『ヴァインランド』を『重力の虹』と同じく映画をめぐる小説として捉え、前者における「見ること」が後者のそれとどのように異なるかを明らかにしようとするものである。女性主人公が属するドキュメンタリー映画グループはDrew AssociatesやNewsreelといった同時代のドキュメンタリー映画制作者たちと方法論や思想を共有するが、“reveal” する光の力に寄せる彼女らの信念はアンドレ・バザンのリアリズム映画論と重なり合う。ただし問題は、『ヴァインランド』中そのナイーヴさが否定的に総括される映画的リアリズムが一人の女性のあるがままを暴こうとする『ヴァインランド』という小説そのものの方法論となっている点である。以上を踏まえ、『重力の虹』との比較において、映画の違い--『重力の虹』のパラノイア的投影=映写(プロジェクション)と『ヴァインランド』のドキュメンタリーのリアリズム--に注目することの重要性を指摘し、その違いが「見ること」の違いとなっていると論じた。 以上2点に加え、平成30年度は、『メイスン&ディクスン』についての研究にも着手した。天体を科学的に観測しつつその運行の背後に神の存在を「見る」二人の科学者という側面に注目する研究となるため、本作における科学と宗教の関連を扱った先行研究の精査を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画をやや前倒しする形で、平成31年度に実施を計画していた『メイスン&ディクスン』研究に着手することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
ピンチョン作品そのものの研究という点では、本研究は当初の計画よりも順調に進展しているといえる。ただし、平成31年度に本格的に行う『メイスン&ディクスン』研究と密接に関係する周辺分野、とりわけ科学と宗教の関係、とりわけ科学者と神の関係という問題はそれ自体で一つの学問分野を形成しているといえ、先行研究の調査に時間がかかることが予想される。したがって、年度内に『メイスン&ディクスン』研究をある程度の形にまとめることが当初の計画ではあるものの、本研究課題の最終年度に至って、研究にやや遅れが生じるかもしれない。
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Causes of Carryover |
2019 MLA Annual Convention のための海外出張が1月と年度末に近く、旅費清算後に海外から図書を購入すると納期の関係で年度内に処理できない可能性があったため。しかし同様の事態が生じた前年度よりも次年度使用額は減少しており、平成31年度はこれまでの経験を踏まえてより計画的に予算を執行する予定にしている。
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Research Products
(3 results)