2018 Fiscal Year Research-status Report
Gender and Texts in the Great Awakening
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17K02556
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
増井 志津代 上智大学, 文学部, 教授 (80181642)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 第一次大覚醒運動 / 環大西洋奴隷貿易 / 女性 / 人種 / 本の歴史 / エドワーズ / ホイットフィールド / センチメンタリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年8月よりハーヴァード大学歴史学部の研究員として一年間の予定で在外研究に当たっている。同大学図書館(ワイドナー、ホートン、神学部図書館)、マサチューセッツ歴史協会等で資料収集を行い、セミナーやコロキアム等に参加した。秋学期はイエール版エドワーズ著作集の翻訳作業を行いながら、大覚醒運動について再考した。18世紀に北アメリカ植民地で起きた覚醒運動は信仰再生と同時に開拓地の共同体作りの記録であることを確認した。記録の中心は若者の行動にある。伝統的信仰を継承せず余暇を持て余す若者たちが、回心後、有益な市民となる過程の記録となっている。模範を若い女性の回心者に認めている点が特徴的である。 2019年春学期は、D. ホール教授の「本の歴史」セミナー"The Mediated Book: Texts, Writers, and Readers in Early Modern Europe and Early America"に参加し、初期アメリカの本の歴史について基本文献と共に多くの資料に当たることができた。さらにオランド・パタソン教授主催の奴隷制のセミナーや講義に参加し、多くの研究報告から最近の研究動向を学ぶことができた。歴史学部主催の研究会やコロキアム、ホミ・ババ主催のMahindra Instituteのセミナーにも参加した。 2019年3月、ワシントンD.C.で開催されたNeMLA50周年記念学会で"African American Literary Voices in the First Great Awakening"の題目で、黒人女性詩人Phillis Wheatleyと 奴隷貿易廃止運動家となったOlaudah Equianoに注目した論文を発表した。歴史学部受け入れ担当ジョイス・チャプリン教授、ボストン大学アニタ・パタソン教授等と複数回面談して意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在外研究に入り資料調査に関して大変恵まれた環境に置かれると共に、研究会やセミナーを通して様々な情報を得ることができ、今後の研究の道筋が明確になってきている。今回はジェンダーに的を絞っているが、18世紀大覚醒期に関しては奴隷貿易とその廃止運動との関係で見ていくことも必要となる。第一次大覚醒におけるアフリカン・アメリカンの貢献に注目した研究は少ないのでこの点についてさらに掘り下げた研究をしたい。ニューイングランド会衆派のPhillis WheatleyとメソジストとなったOlaudah Equianoについての研究はこれまでの成果を論文にまとめ、ワシントンD.C.で開催されたNeMLA国際学会で発表した。 ジェンダーについては、18年3月に行った講演原稿を論文としてまとめ、出来るだけ早く発表したい。このテーマは19世紀米文学への影響も焦点となるので、19世紀作家へのエドワーズの影響について考察する研究に発展させる。また、18~19世紀に出版された宗教トラクトとの関係も今後の研究テーマである。トラクトについては在外期間中にホートン図書館やマサチューセッツ歴史協会で資料収集をすでに開始している。 人種・民族とキリスト教の関係については、研究書"Christian Slavery"(UPenn, 2018)を出版したばかりのキャサリン・ガブナー、ブラウン大学でネイティヴ・アメリカンと宗教の関係を研究しているリンフォード・フィシャー等の若手研究者と交流ができた。当初の目的である大覚醒と女性のテーマからさらに人種のテーマへと研究を進展させる道筋が見えてきている。 今年度は、エドワーズ著作の翻訳作業を進め、学会発表は行ったが、本テーマの論文は草稿のみで出版には至らなかった。よって進捗状況は、(2)おおむね順調と判断する。講演原稿、学会発表原稿を論文にまとめて本課題研究期間中の出版を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
ペンシルヴァニアのモラヴィア派アーカイヴで調査をしたK. ガブナー氏による成果研究発表を聞き、本研究の前史的に当たるモラヴィア派については、氏によってカヴァーされていることを確認した。よって今回の在外研究期間にはペンシルヴァニアへの調査旅行は一旦据え置きとし、8月末までボストンを拠点としたアーカイヴの資料収集と研究成果のまとめに集中したい。 8月、カナダのアルバータ大学で開催される国際バンヤン学会で Equianoのナラティヴにおける回心体験告白について研究発表する。『天路歴程』の巡礼モチーフ、そして18世紀英国海洋文学がEquianoに与えた影響についての研究となる。本国際学会には17~18世紀研究者が集うので、環大西洋宗教思想と文学との関係について、英語圏での最近の研究について学べると期待している。 本プロジェクトでは、ジェンダーを中心に研究を進めてきた。今後はこれを人種・エスニシティの視点を加えた研究へと発展させる。アメリカ史だけで考察すると奴隷制廃止運動研究は19世紀が中心となる。しかし、その前に、メソジストが活躍した18世紀末の奴隷貿易廃止運動があった。また、18世紀の環大西洋における出版活動にはピューリタン会衆派、メソジスト等のプロテスタントが大きく貢献した。会衆派に加えて、WheatleyやEquiano作品の出版背景にあるメソジストの出版活動を調査し、初期アメリカの出版と本の歴史について今後は研究を進めたい。今年度はD. ホール教授のセミナー、ボストン大学J. レジェック教授との意見交換を通して、この分野について資料情報を得ることができた。 今後の研究は(1)大覚醒と人種、(2)大覚醒と環大西洋における本の歴史ーー以上、二つのテーマにしたいと考えている。最終年度は「大覚醒と女性」の論文を完成させ、(1)のテーマの研究をカナダにおける国際学会で発表する。
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Causes of Carryover |
2018年8月から開始したハーヴァード大学における在外研究が2019年8月末まで継続する為、滞在経費が必要となる。その為、次年度に繰越して用いることとした。滞在中は、ワイドナー図書館、ホートン図書館他、アーカイヴを中心に本研究課題のための資料調査を進めると共に、同大学他の研究者と交流し、今後の国際共同研究に向けた打ち合わせを行う。
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