2021 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における人種隔離訴訟と「分離すれど平等」原則の〈法と文学〉分析
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17K02557
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 教授 (00407602)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人種関係 / レイシズム / 法と文学 / 人種分離 / 奴隷制 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の5年目である令和3年度は、調査・収集を行うと共に、その途中の成果をまとめる予定であった。令和元年度の調査をとおして、19世紀末から20世紀前半にかけての〈分離すれど平等〉原則の法思想史的連続性を確認できたことを踏まえて、令和2年度では、合衆国における人種隔離という制度・慣習を通史的に整理した。具体的には、合衆国の鉄道における人種隔離を調査対象とし、 南北戦争以後から20世紀半ばにかけての合衆国南部に固有の現象だと思われていた人種隔離は、ほぼ同じ形で南北戦争以前の北部においても存在しており、南北戦争以前の北部でも後年の南部と同じような、アフリカ系アメリカ人に対するレイシズムが比較的小規模であるものの、存在していたこと、そして後年の南部では南北戦争以前の北部でよりも、厳密に人種間の差異を明確にする必要があったことを確認した。 以上の調査を踏まえて、令和3年度では、1830年後半から1840年代前半にかけてのマサチューセツでの鉄道における人種分離とそれが撤廃されるに至った経緯に焦点を当てて以下を確認した。 (1) マサチューセツでは商業的鉄道が登場した初期から人種分離が行われていたこと。 (2) マサチューセツでの人種分離を擁護する議論には19世紀末から20世紀初頭の南部におけるそれと共通点があること。 (3) 一方で、マサチューセツでの鉄道における人種分離廃止論は、19世紀末から20世紀前半にかけての人種分離に反対する議論とも多くの共通点が見出せるものであったこと。 (4) 1840年代にマサチューセツでの鉄道で人種分離が廃止されるに至った背景には反奴隷制思想があったこと。 以上の考察を通して、〈分離すれど平等〉原則を理解するためには、人種分離・レイシズム・奴隷制の影響の3点の相互関係を探ることが鍵になることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画の5年目であった令和3年度は、調査・収集を行うと共に、その途中の成果をまとめる予定であったが、思ったほどの成果が出せず、研究計画に遅れが生じることとなった。新型コロナウィルス感染症の世界的な流行が収まらなかったことに加えて、学内業務に多くの時間を割かなけれならなかったことが、その主な理由である。米国での資料調査を断念せざるを得なかっただけでなく、大学のアドミッションセンター長として、新型コロナウィルス感染症に対応した入試体制の準備に関わることとなったため、まとまった研究時間の確保が困難であった。 しかし、南北戦争以前のマサチューセツでの人種分離を中心に、それと南北戦争後の南部の人種分離を比較することで、本研究計画の中心的な課題である〈分離すれど平等〉原則の思想史的起源をより立体的に理解する足がかりを獲得できたのは、大きな進展だった。とりわけ、奴隷制と人種分離の間に連続性を見る認識の有無が、マサチューセツと南部において決定的に違うことを確認できたのは有意義だった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、上で述べてきたように、北部(主にマサチューセツ)と南部の人種分離の違いを調査する。これまでの調査を通して、両者が決定的に違うのは、奴隷制と人種分離の間に連続性を認めるか否かという点にあるという仮説に至った。今後は、この点を検証していきたい。このため、マサチューセツで人種隔離に反対していた奴隷制廃止論者の主張において、奴隷制廃止論と人種隔離反対論はどのように思想的な連続性があったのかについて行った昨年度の調査結果を論文としてまとめたい。マサチューセツで1830年代後半には複数の鉄道路線で一般化していた人種隔離は、1843年に鉄道会社の自浄努力により廃止される。鉄道会社にこのような判断を促したのには、奴隷制廃止論者の議会に対する働きかけが大きかった。この時、奴隷制廃止論者の運動は、異人種間の結婚を禁止する州法の廃止を求める運動と、マサチューセツに逃れてきた逃亡奴隷ジョージ・ラティマーの奴隷主への引き渡しを巡って1842年に盛り上がった反奴隷制論と軸を一にして行われた。このことは、マサチューセツでの鉄道車両における人種分離反対論には、単に黒人に対するレイシズムの否定だけでなく、そのようなレイシズムが奴隷制と不可分であるという認識があったことを物語っている。このことをマサチューセツの鉄道会社の内規、反奴隷制論者の人種分離反対論から裏付けたい。さらには、人種分離・レイシズム・奴隷制の連続性の認識の欠如こそが南北戦争後に南部で法制化された人種分離を生成していることを、南北戦争以前のマサチューセツの反奴隷制論者たちの議論と19世紀末の南部の人種分離推進論、とりわけ南部の人種分離を合法化する合衆国最高裁の判決と比較し、さらには、憲法修正第13条の成立過程とこれに対する合衆国最高裁の解釈という歴史的コンテクストを踏まえて明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度の予算を全て消化することができず、次年度使用額が増えることとなった。 このような事態となったのは、予定していた海外出張をコロナウィルスの流行による感染防止のために取りやめたためである。繰り越した額は、可能であれば、令和4年度に資料調査のための海外出張で執行したいと考えている。また、パソコン等の資料整理・論文執筆のための機器の購入も予定している。予算の多くは、旅費と機器備品費に充てることになる。これら以外にも、資料や消耗品の購入に充てるほか、英文論文のチェックのために謝金・人件費として予算を支出する予定である。
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