2018 Fiscal Year Research-status Report
Politics of Laughter in Contemporary Canadian Minority Fiction
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17K02566
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
戸田 由紀子 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (40367636)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ザルカ・ナワズ / カナダ / 笑い / アントニーン・マイエ / アカディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、21世紀転換期以降のカナダマイノリティ文学における「笑い」の手法とその政治的戦略を明らかにすることである。30年度は29年度に行ったこれまで発表されてきた「笑い」の理論(プラトンとアリストテレスの「優越説」、フロイトの「解放説」、バフチンの「カーニバル的な笑い」、ベルクソンの「防衛反応説」、ショーペンハウワーの「不一致説」など)のレビューおよびカナダマイノリティ文学における「笑い」の理論(Taylor 2005, Fagan 2009, Rea 2015,et al.)のレビューを踏まえた上で、パキスタン出身、英国で生まれ、カナダのトロントで育ったムスリム作家ザルカ・ナワズの作品における「笑い」の政治的戦略について考察した。ナワズは、従来のムスリム作家たちの描いてきた自伝的な作品とは異なり、「笑い」の要素をその中心的手法として用いている。ザルカのショートフィルムなどをはじめとした一般に入手できない一部のフィルムに関しては、ブリティッシュコロンビア大学の図書館で入手した。そしてナワズの自伝的小説(Laughing All the Way to the Mosque)、ドキュメンタリーフィルム(Me and the Mosque)、ショートフィルム(BBQ Muslims, Death Threat, Random Check, Fred’s Burqa)、戯曲(Real Terrorists Don’t Bellydance)、ドラマシリーズ(Little Mosque on the Prairie)において、人種や性差別に抵抗する物語手法として「笑い」がどのように用いられているかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
30年度に予定していた通り、ザルカ・ナワズの作品の考察を行なうことはできたが、当初予定していた活字化するまでには至らなかった。今後行う予定である。30年度は当初予定していた計画に加え、カナダ・アカディアの作家アントニーン・マイエの作品における笑いの手法についてニューブランズウィック大学のトニー・トレンブレー教授と意見交換することができた。トニー・トレンブレー教授を招き、「カナダ・ニューブランズウィックの文学:アントニーン・マイエの作品とユーモア」と題した国際公開講座を企画・開催した。本イベントを通してアントニーン・マイエの作品における笑いの手法について考察した。教育を受けられなかったがゆえに豊かな口承文化を持つようになったフランス人入植者のアカディア人たちを代表するマイエの作品は、経済格差を再生産する政治・社会を痛烈に批判する手法としてユーモアが効果的に機能していることを把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
31年度はナワズの作品の先行研究、アーシャッド・マンジなど「笑い」を用いずに同様のテーマを扱っているムスリム作家の作品、ムスリム作家による伝統的移民物語などをさらに読み込んだ上で、昨年度考察したザルカ・ナワズの作品における笑いの手法の考察を論文として発表する予定である。また、主流作家マーガレット・アトウッドの作品における「笑い」の手法の考察を行い、6月のカナダ文学会年次大会にて発表する予定である。またカナダを代表するユーモア作家Terry Fallisも参加予定のFestival of Written Artsに参加し、アトウッドの作品に加え、主流作家の用いる「笑い」の手法についての理解を深めたい。31年度はカナダ作家Kim Thuyを招き、国際公開講座の開催を6月に開催する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度カナダから招聘する予定であった作家が今年度に変更となったため、その分の旅費交通費および謝礼を今年度利用することとなった。
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Research Products
(3 results)