2018 Fiscal Year Research-status Report
現代オーストラリア小説から読み解く先住民とヨーロッパ人の関係性
Project/Area Number |
17K02569
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 渉 立命館大学, 法学部, 教授 (30411143)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | オーストラリア先住民文学 / アボリジナル / ポストコロニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
John Romeril, Ellen Van Neerven, Tony Birchの作品を中心に、彼らの作品に描かれた先住民と非先住民の関係について分析を進めた。これらの作家のうち、Romerilの作品を公開講演会で取り上げた。 Romerilはアジア太平洋地域に着目し、オーストラリアとその周辺地域の文化交流を描いてきた作家である。講演ではRomerilの作品のうち、豪州北西部の町ブルームでの真珠貝採取業に契約労働者として従事していた先住民とアジア系移民、さらに彼らの雇用主であったヨーロッパ人との関係を扱った作品『ミス・タナカ』を論じた。多様な文化的背景を持つ人々が集まっていた1930年代のブルームは、白豪主義政策下にありながら多文化状況の進んだ町であった。本作では当時の人種間の階層関係が描かれる一方、支配―被支配あるいは中心―周縁という二元論的な図式では説明しきれない複雑な関係が描き込まれている。また、トレス海峡諸島民の母と日本人の父を持つ境界的な存在であるカズヒコが、ブルーム社会さらには大戦の混乱をたくましく生き抜いていく姿を描くことにより、カズヒコが体現している文化の混淆性が賞揚されている。木曜島出身の先住民であるカズヒコの母は、作品中ではすでに死亡しているが、ストーリーの背後に常にその存在が感じられる。たとえば、人種にかかわりなくブルーム住民を等しく圧倒するサイクロンの襲来は、カズヒコの母の吐き出す息として表現されている。このように、Romerilはポストコロニアリズムの問題系を引き継ぎながら、先住民と自然環境との結びつきを巧みに表現し得ている。他方、先住民文学の主要なテーマであるアボリジナル・アイデンティティの探求は描かれておらず、むしろ本質主義的な文化の枠を超えて新しい世界を見出していこうとする若者の姿を描いている点にこの作品の新しさがあることを論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
収集してきた作品の読解と考察を進めているが、まだ論文にまとめて発表する段階には至っていない。また、オーストラリアから作家を招聘してシンポジウムを実施する計画だったが、当初予定していた作家と日程が折り合わなかったため実現できなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
全体的に計画が遅れていることから、対象とする作品を先住民作家による作品に絞り、論文にまとめていく。 4月に歴史研究者で先住民作家のTony Birch氏を招聘し、研究会と講演会を開催する。研究会では、植民地主義の歴史をフィクション化することの意義と問題点、同化政策が現代に及ぼしている影響等について議論する。また、バーチ氏はメルボルン大学の創作科で長年にわたり講師を務めてきたことから、先住民文学のオーサーシップの広がりや、新進作家への支援状況についても情報を提供してもらう。その成果は、Birch氏の作品の分析とあわせて、オーストラリア・ニュージーランド文学会の紀要『南半球評論』にて発表する。そのほか、2月頃に先住民文学研究者のJeanine Leane氏を招き、シンポジウム形式の研究会を開催する。本研究課題の成果を論文にまとめて、今年度中に投稿する。
|
Causes of Carryover |
オーストラリアから作家を招聘してシンポジウムを開催する計画だったが、招聘予定者と日程の調整がつかず、2019年度に持ち越しとなった。そのため、旅費と謝金の支出額が当初計画よりもかなり低くなった。2019年度は4月に作家を招聘して研究会を開催する。また、2020年2月に先住民文学研究者をオーストラリアより招いてシンポジウム形式の研究会を開催する予定である。
|