2017 Fiscal Year Research-status Report
エレン・グラスゴウの書簡研究―ダーウィニズムの多様な観点から―
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17K02571
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Research Institution | Ashiya University |
Principal Investigator |
種子田 香 芦屋大学, 臨床教育学部, 講師 (10760035)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 書簡 / アメリカ南部文学 / 遺伝 / ジェンダー / ダーウィニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
キャサリン・パターソン、エレン・グラスゴウ、リチャード・ライト、ウィリアム・ウェルズ・ブラウンといったアメリカ南部作家の作品を読み解くことから、地域的な特徴や歴史的背景について再検証した。本年度はニューヨークで資料の収集を行ったため、グラスゴウの書簡研究の実績は次年度以降になるが、過去から現在に至るまでアメリカ南部小説を俯瞰することによって、歴史と社会文化史的背景についての考察が深まった。いずれの作品においても人種や性に関する諸問題が色濃く表れている。今年度の業績は、南部作品における一貫したテーマの把握に繋がると思われ、グラスゴウ作品の持つ文学史的な重要性を確認することに役立つと思われる。 奴隷制を基盤として社会経済が成り立っていた南部社会においては、奴隷解放後も人種や性のカテゴリーを分断したまま、社会システムを維持しておくことが、支配する側にとっては好都合であった。過去の負の遺産をいかに断ち切るかという外からの視点と、伝統として残存させようという内側からの視点による力のせめぎ合いが、それぞれの小説にいかに表現されているのかが明らかになるように心がけて作品分析を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度はニューヨーク公立図書館で収集しているエレン・グラスゴウの書簡を実際に手に取り、グラスゴウの交友関係を調査した。また、日本では手に入りにくいグラスゴウに関する雑誌の複写を収集し、今後の研究の重要な手がかりを得ることができた。 研究調査対象であるアメリカ女性作家エレン・グラスゴウは耳が聞こえにくかったため、多くの文筆家と手紙のやり取りをしてコミュニケーションをはかっていた。今回の調査では、20世紀初頭に女性参政権運動で知り合いになった活動家に手紙を送り、『不毛の大地』を出版時に献本していたことが明らかになった。 ニューヨーク公立図書館は閉架式のため、閲覧したい資料を一冊ずつカウンターで司書に注文しなければならず、希望する図書を入手するのにかなりの時間がかかった。当初は2日で書類の入手を完了できる見込みであったが、4日間かかったうえに、結局は手に入らなかった資料もあり、今後、引き続き資料の収集を続ける必要がある。多くの書簡を保管している部屋でも、実際に手に届くまで時間がかかった。しかし、作家の美しい手書きの書簡を手に取ることができ、貴重な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
グラスゴウの書簡はすでに本として編集・出版されているものもあるが、相手との往復書簡としてペアで研究することによって、本研究の重要性が高まると思われる。そのため、2年目、3年目ではグラスゴウが手紙を出した相手と、その人物の手紙の内容の把握、さらにはグラスゴウ作品に及ぼした思想的な影響力を読み解くことを目指している。具体的には、当時の南部文学に重大な影響力を持っていた2人の批評家、アレン・テイトとH. L. メンケンの書簡を収集し、アメリカ南部のダーウィニズム受容の是非に関するそれぞれの立場や、第一次、第二次戦争と植民地主義への見解の相違にまで研究範囲を広げていきたい。
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Causes of Carryover |
ほぼ予定通りに使用したが、少し余りが出た分に関しては繰り越して、次年度の調査費用の一部にあてることを計画している。
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