2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカ文学とテクノロジーの交錯にみるサイエンス・フィクションの原風景
Project/Area Number |
17K02577
|
Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
中村 善雄 京都女子大学, 文学部, 准教授 (00361931)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | サイエンス・フィクション / ヘンリー・ジェイムズ / 四次元思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年の研究テーマは、SF作家としてのHenry Jamesの可能性に関する小説研究であり、この研究題目に従って、国内にて研究及び執筆を進めていった。夏季休暇中には約3週間、ハーバード大学の各図書館(ワイドナー等)にて一次資料の文献収集にあたった。これら国内外での文献の検討を通じて、19世紀の技術的進歩が世紀末に時間や空間の相対化という考えを齎し、その具現である四次元思想が知的流行となった事実に着目した。次にその思想に対するJames及び彼の周囲の者たちの反応及びその影響下で生み出されたH.G.Wellsの一連のSF作品とそれ対するJamesの評価について考察した。これらのJamesを取り巻く文学的状況を踏まえた上で、彼の未完小説『過去の感覚』のうちに四次元思想の影響とWells作品との親和性を見出し、また『過去の感覚』の執筆中断期間に起こったアメリカ再訪や第一次世界大戦の勃発、自伝的作品の執筆がJamesの過去志向を促し、それが過去へとタイムトラベルする主人公の心情に反映されていることを突き止めた。この研究の成果を、「四次元思想と時空を巡る文学的想像力―タイムトラベル物語としての『過去の感覚』」と題した論文に纏め、『エスニシティと物語り―複眼的文学論』(2019年、金星堂)に所収された。またハーバード大学で収集した資料を基に、絵画の挿絵や雑誌、写真をキーワードに執筆したJamesの短編The Real Thingに関する論考は、次年度中に欧米言語文化学会が上梓する記念論文集に所収される予定となっている。3月には日本ナサニエル・ホーソーン協会関西支部シンポジウムにて、タイプライターと降霊術との親和性を視野に入れながら、生者/死者のジェイムズの声を聞く口述筆記者Theodora Basanquetについて論じる予定であったが、コロナ禍により延期となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Henry Jamesが未完長編『過去の感覚』において過去へのタイムトラベルというアイデアを用いた要因を探ることに主眼を置いた。その原因として、①19世紀末に発生した、時間と空間の相対化を巡る四次元的思想の流行、②Jamesが自身の文学的後継者として期待したH.G.Wellsのサイエンス・フィクションからの影響、③晩年を迎えたJames自身の過去への憧憬を挙げ、それらを基にJames作品が内包するSF性について考察した。その研究を、「四次元思想と時空を巡る文学的想像力―タイムトラベル物語としての『過去の感覚』」と題した論文にし、『エスニシティと物語り―複眼的文学論』(金星堂)に所収され、予定していた成果を公表することが出来たと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、James作品にみるタイムトラベルという時間の相対性に焦点を当て、このアイデアの出処を考察した。Jamesが影響を受けたと考えられる四次元思想では、時間のみならず空間の相対化も大きな問題であり、Jamesに対する四次元思想の全般的な影響を検討する上で、次年度は空間を巡る問題を軸に彼の作品を読み解いていく予定である。これを踏まえ、最終的には時間と空間の相対化を作品テーマとしたJamesの一面に注視することで、プロト・サイエンス・フィクションの担い手としての彼の相貌を明らかにしていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本年度は当初の計画通り、アメリカ文学関連書類やSF並びにテクノロジー関連図書を購入し、夏季長期休暇中にハーバード大学にて文献収集を行い、また成果発表や意見交換のために国内外の出張を行なった。しかし、前年度からの繰り越し額があり、またコロナ禍のために予定されていた学会でのシンポジウムや国内出張の一部がキャンセルとなり、次年度使用額が生じた。そのため本研究課題の延長措置を講じ、翌年度も当該研究課題に資する図書購入を行うと共に、今年度に延期となったシンポジウムや次年度に予定のシンポジウムや講演にて成果を発表するために、出張費として予算を使用するつもりである。但し、感染症収束の目途が立たない状況下では、計画されている成果発表も引き続き延期あるいは中止の場合もあり、その可能性を視野に入れながら、計画的に予算を執行していく所存である。
|
Research Products
(3 results)