2017 Fiscal Year Research-status Report
「現実性/虚構性」表出の語りの技法研究:フォークナーの符号表現実証分析を起点に
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17K02578
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Research Institution | Hijiyama University |
Principal Investigator |
重迫 和美 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (00279085)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 語りの技法 / ウィリアム・フォークナー / 符号表現分析 / 虚構作品の現実性と虚構性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度研究計画は,第一に,ウィリアム・フォークナーの符号表現の意味用法を究明すること,第二に,虚構物語に「現実性/虚構性」を与えるフォークナーの語りの技法を究明することを課題とした。サウスイーストミズーリ州立大学フォークナー研究センターにおけるフォークナー関連資料の調査・収集を基に二つの課題に取り組み,その成果を二本の研究論文(「A Fable におけるFaulknerの語りの技法ー第6章の特異な三人称の語り手ー」,「The Sound and the FuryのQuentinの内面描写における引用符の意味ー『大いなる夢よ、光よ』の章子の内面描写を参照してー」)にまとめた。 第一課題に対する成果として,具体的には,フォークナーの校正跡から,彼が引用符を明確に使い分けているのを確認できた。従来の研究は,イタリックスには注目してきたが,引用符は軽視していた。引用符の意識的な使い分けが前提できれば,例えば,一部の作品のみで登場人物の台詞が二重引用符でなく一重引用符で括られていることに,作品解釈上も重要な意味を見いだせる。フォークナー研究の全く新しい分析切り口である。 第二課題に対する成果として,フォークナーの『響きと怒り』(1929),『野生の棕櫚』(1939),『寓話』(1954),及び津島佑子の『大いなる夢よ、光よ』(1991)の語りの技法の比較により,虚構物語に「現実性/虚構性」を与えるフォークナーの語りの技法に歴史的変化を発見した。具体的には,後期作品において,従来の研究が技法として認知していない方法(例えば,イタリックスを使うべき所で使わない方法)で,フォークナーは虚構内虚構物語に現実性を与える実験をしている。この発見は,これまで技法の実験が認知されていないフォークナー作品に対しても技法研究の意義があることを証し,未開拓分野でのフォークナー研究を進展させる契機となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度研究計画の二つの課題(「ウィリアム・フォークナーの符号表現の意味用法の究明」及び「虚構物語に「現実性/虚構性」を与えるフォークナーの語りの技法の究明」)は,おおむね順調に進展した。 当初計画では,サウスイーストミズーリ州立大学フォークナー研究センターにおいて,『野生の棕櫚』に関わるフォークナーの手書原稿及びタイプ原稿を綿密に調査するとしていた。実際には,『寓話』の語りの技法分析が,当初計画よりも早く進み,渡米前に新たな研究段階に達していたため,フォークナー研究センターでの調査は,『野生の棕櫚』資料は概観するにとどめ,『寓話』中,特に独特の技法が見られる第6章に関わる資料に焦点を絞った。後に『寓話』第6章の一部として使われることになった限定出版の『ある馬盗人の記録』を,フォークナー研究センターが所蔵していたのも,調査の焦点を絞り込んだ理由である。結果として,当初計画の「符号表現の意味用法の究明」は『野生の棕櫚』ではなく『寓話』資料の調査・収集によって為されることになった。加えて,小説資料の調査範囲を限定することで時間に余裕が生まれ,次年度調査予定のスクリーンプレイについても,ある程度,事前調査をすることができた。 フォークナー研究センターにおける資料の調査を『寓話』の第6章に集中したことは,「虚構物語に「現実性/虚構性」を与えるフォークナーの語りの技法の究明」推進にも役立った。10月までに『寓話』第6章の分析を終えた後,『響きと怒り』と津島佑子の『大いなる夢よ、光よ』の技法を分析する時間的余裕ができ,次年度研究の予備的調査に進むことができた。次年度は,『響きと怒り』(1929),『野生の棕櫚』(1939),『寓話』(1954)の三作品を比較検討し,フォークナーの技法の歴史的変化を突き止める計画であり,また,日本の様々な物語に研究対象を広げる計画もあるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では,平成30年度以降は,平成29年度に掲げた二つの課題(「ウィリアム・フォークナーの符号表現の意味用法の究明」及び「虚構物語に「現実性/虚構性」を与えるフォークナーの語りの技法の究明」)に加え,多様な多重物語についての,虚構物語に「現実性/虚構性」を与える語りの技法を比較考察することを課題に掲げている。 平成30年度は,第一の課題に関して,当初計画どおり,サウスイーストミズーリ州立大学フォークナー研究センターにおいて,フォークナーの映画脚本の調査を行う。第二の課題に関しても,当初計画どおり,『響きと怒り』(1929),『野生の棕櫚』(1939),『寓話』(1954)を研究素材として,フォークナーの語りの技法の歴史的変化を究明する。 第三の課題に関しては,当初計画では,バースの『キマイラ』,筒井康隆の『朝のガスパール』,特撮『仮面ライダーディケイド』,アニメ『魔法少女まどかマギカ』を扱うとしていた。しかし,平成29年度時点で上記作品の予備調査が終わり,時間的余裕があるので,比較対象作品の見直しも視野に入れて分析対象を広げる。小説では,フォークナーの影響が強い,三島由紀夫,津島佑子,阿部和重等。純文学小説以外にも,タイム・リープやパラレル・ワールド等で多重世界を扱う作品として,ライトノベルの『涼宮ハルヒの憂鬱』,漫画『ぼくらの』等。これらの分析候補作品の中から比較に適切な作品を選択し,多様な多重物語についての虚構物語に「現実性/虚構性」を与える語りの技法の比較研究を行う。 平成31年度は,当初計画どおり,バージニア大学においてフォークナーの映画脚本の調査を行う。最後に,第一,第二,第三課題の総括として,フォークナーの符号表現の意味用法をまとめ,虚構物語に「現実性/虚構性」を与える語りの技法という観点から,日米の多様な多重物語の比較研究を行う。
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Causes of Carryover |
外国旅費のうち,日程を切り詰め,国内移動に低価格のLCCを使い,外国での宿泊先にサウスイーストミズーリ州立大学キャンパス内にある低価格のゲストハウスを利用した。結果として外国旅費を低く抑えることができ,外国旅費の中から,次年度使用額が生じた。 次年度に繰り越された使用額は,アメリカのフォークナー研究者に助言を得ることを目的として,日本国内で研究会を開催する際の,研究者招聘費(人件費・謝金)や通訳料(人件費・謝金)等として使用する計画である。また,フォークナー手稿関連書籍(古書)が当初研究計画立案時より値上がりしているため,手稿関連書籍を購入する資金(物品費)に回す計画である。 なお,LCCは運行が不安定なので,次年度以降は利用しない計画である。次年度以降の宿泊先として今年度使用のゲストハウスを利用できるかどうかは,ゲストハウスが2戸しかないため,不明である。
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Research Products
(2 results)