2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K02581
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
楠元 実子 熊本高等専門学校, 共通教育科(熊本キャンパス), 教授 (60353348)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / エスニックマイノリティ / 母娘関係 / アイデンティティ / 女性文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では現代アメリカ合衆国の様々なエスニシティのエスニック女性作家の作品における娘のアイデンティティの問題を分析している。平成30年度は3年間の研究期間の2年目に当たり、1年目のアフリカ系の作品研究を口頭発表と論文としてまとめた。そして2年目に行う予定であったアジア系の作品の基礎的研究を行い、口頭発表を行った。 アフリカ系アメリカ人の女性作家トニ・モリスンの作品で描かれる娘達について、虐待からの回復過程を類型化し、「怒り」を切り口にして、娘達の成長と作家の願いについて論じた。ジュディス・ハーマンのトラウマ理論、カール・ロジャーズのカウンセリング理論を援用して分析したが、娘達は怒りの爆発と暴力で沈黙を破り、トラウマ語りとカウンセラー役の助けによって自己を再構築していた。また、現地のマニュスクリプト調査でわかった事実からタイトル分析を加え、モリソンが人種を越えた連帯と子供の自助力を願って表現した作品と結論づけた。 アジア系アメリカ人に関する学会であるAALAフォーラムに参加し、whitewashingに異議を唱える動きやアジア系キャストのみのハリウッド映画製作など映画界やアメリカ社会の新しい動向を確認し、作品研究の情報交換をすることができた。 日系アメリカ人の女性作家シンシア・カドハタが描いた祖母・母・娘と3世代にわたる機能不全家族の不安定要素を抽出し、それが娘のアイデンティティ確立にどのようにかかわってきたかを発達心理学のエリック・エリクソンのライフサイクル論を援用しながら分析した。発達段階ごとで家族の二面性を理解し、また祖母や実父が書き残した物にアイデンティファイしていくことで娘がアイデンティティを確立してきたことを明らかにし、不安定性の持つ普遍性についても合わせて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は学会発表を2点、論文発表1点を行い、今までの研究成果を発信した。アウトプットの面では満足できる成果を得、国内における文学研究を順調に行うことができた。しかし、海外における調査などのインプットの面においては、勤務先の校務である海外研修引率や英語教育の海外研修などの複数業務が予定外に入ってきたため、科研費での予定していたアメリカ渡航を行うことができなかった。こちらは令和元年度に渡航回数を増やして挽回する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
アフリカ系アメリカ人の作品研究と日系アメリカ人の作品研究は一定量行うことができたので、今年度はメキシコ系アメリカ人と中国系アメリカ人の文学作品研究を主に行う。また、アメリカ西部のUCバークリー附属エスニック研究大学図書館、メキシコ系の多い中西部のUT大学図書館などにおいて、文学コレクション資料の調査、研究者や関係者との面会を行い、チャイナ・タウンなど作品の舞台の現地調査、撮影などを行う。また、現地の資料公開が間に合えば、プリンストン大学の大学図書館においても補足資料調査を行いたい。そして、文学研究の成果を学会で発表し、また、文学・文化映像教材のプロトタイプを作成する。
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Causes of Carryover |
勤務先の校務である学生海外研修引率や英語教育の海外研修などの業務が長期休暇などに入ってしまい、平成30年度はアメリカでの調査を行うことができなかった。今年度においては、前年度の遅れを取り戻すために2回に分けてアメリカに渡航し調査研究を行うため、その繰越額を合わせて使用する。
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Research Products
(3 results)