2018 Fiscal Year Research-status Report
アルヌール・グレバン作『受難の聖史劇』における韻文構造上の諸原理の継承と発展
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17K02583
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黒岩 卓 東北大学, 文学研究科, 准教授 (70569904)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 仏文学 / 文献学 / 演劇学 / 詩作技巧 / 写本学 / 比較文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の作業に引き続きグレバン作『受難の聖史劇』の写本の転写を行い、K写本およびE写本の「第一日目」の転写を完了した。これによって、事実上使用可能な7つの写本全ての「第一日目」について転写を行ったことになる。これらの転写を基として各写本における孤立詩行の分布の傾向を分析し、各写本の成立過程や用途などについてこれまでよりも総合的な知見を得、とりわけ本課題の分析において大きな位置を占めるG写本の作品伝承上の位置づけを明確にすることができた。加えて日本において今後この作品を紹介していく上でどの写本が優先されるべきかについて、従来よりも踏み込んだ考察を行うことができた。これらの蓄積を基にH31年度にはとくに『アラス受難劇』との比較を本格化させたい。 また副次的なテーマである日本における中世演劇の受容についても知見を深めることができた。とくに日本の中世演劇研究の黎明期において優れた業績を残しながら、戦後には文献学的な仕事を発表しなかった坂丈緒の生涯とその業績について、これまで知られていなかったさまざまな資料を発見することができた。こうした調査を通じて本研究課題が国際日本学といった他分野の文脈において発展させられる可能性を開拓することができた。 本年度は上の研究成果に基づき海外において三度の研究発表を行った。とりわけこれまで海外での発表言語がフランス語であったのに対し、今年度は英語による発表を二回行った。今後は日・仏・英の三言語を発表内容や発表媒体によって使い分けながら、従来よりも学際的なコンテクストで成果発表を行っていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定よりも多くの写本を転写の対象とすることで、『受難の聖史劇』という作品の伝承や位置づけについて、他の研究者に知られていない網羅的なデータを背景とした考察を行うことができるようになった。その反面、詩作技巧スキームの分析については来年度に持ち越されることになったが、『受難の聖史劇』の演劇史的位置づけという研究課題の目的からすれば、写本の網羅的転写を行ったことには大きな意義があったと考える。以上の理由から上の区分を採用した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はこれまでの転写を十分に活用して、具体的な詩作技巧スキームの分析を行い、可能な限りで『アラス受難劇』との比較を行いたい。
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Research Products
(3 results)