2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02588
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
津森 圭一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70722908)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プルースト / 庭園 / 風景 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度はプルーストの「庭園美学」を精査するうえでの準備段階として、西洋庭園史を概観する作業を進めるいっぽう、当該研究の基盤をなすプルーストの風景美学に関する研究発表と論文執筆を行った。 西洋庭園史の概観については、作家の記述を庭園史的文脈のなかで論じる必要性から、主としてMichel Baridon の著作Les Jardins : paysagistes, jardiniers, poetes, Paris, Robert Laffont, coll. ''Bouquins'', 1998)に沿って各時代の庭園の状況と庭園理論書のアウトラインを把握することを目指した。 プルーストの「庭園美学」の遠い源泉としては、テオクリトス、ウェルギリウス、プリニウス等古典古代の作家、またキリスト教の文脈では聖書『創世記』や『雅歌』などが挙げられる。また、これらの文献がプルーストの「庭園美学」との関連を明らかにするため、まずはプルーストが青年期に影響を受けた19世紀末の象徴主義芸術における庭園観に着目し、その研究調査を続行中である。その一環で、プルーストの初期作品と19世紀末フランスの作家や詩人の風景観、庭園美学との比較を試み、成果の一部分を2017年9月の東北大学でのシンポジウム「象徴主義と〈風景〉」にて発表した。 プルーストの風景美学については、ボードレールの散文詩「芸術家の告白の祈り」の受容を調査することで、プルーストの初期作品以来の風景描写に通底する最重要な典拠であることを確認した。その内容を九州大学フランス語フランス文学研究会誌『STELLA』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プルーストの「庭園美学」研究の背景となる風景美学について2件の学術論文を執筆し出版する機会を得た。その他、プルーストと象徴主義と〈風景〉に関する論考、プルーストと中世芸術に関する論考、計2件の論文を提出した(未発刊)。以上の執筆およびそのための調査のために、プルーストの「庭園美学」に関する研究の進度に一時的な影響が出たことは否めないが、風景美学は庭園美学の基盤をなすという観点からすると、むしろ当該研究の全体的な進展を促進したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、夏季休暇終了までに、プルーストにおける読書の場としての庭園論に関する学術論文を執筆し、九州大学フランス語フランス文学研究会誌『STELLA』に寄稿する。本論文では1906年にラスキン『胡麻と百合』仏訳序文「読書の日々」、「コンブレー」における庭園での読書の場面、この一節の執筆のために準備された草稿帳を主なコーパスにする予定である。読書の行為によって、自我は書物の世界に没するあまり、読書を行っている場所をとりまく外界との間に障壁を築いてしまう。このような状況設定を考えるうえで、作家が中世の修道院における瞑想や読書の場としての囲われた庭園を想定していることを示したい。そのために8-9月にフランスに渡航し、19世紀末の庭園案内書や理論書の調査を行う。また、10月には日本フランス語フランス文学会秋季大会において、19世紀後半フランスの文学者と美術批評を主題としたワークショップを企画し、プルーストとナビ派芸術において描かれる庭園との関連について発表する。また12月には岩手大学で開催される「証言の時代」をテーマとするシンポジウムにおいて、プルーストと20世紀初頭の政教分離法案や風景保護法案との関連を「庭園美学」の側面からアプローチした発表を行う。その後、プルーストのテクストに読み取ることのできるイタリア式庭園(平成30年度)、フランス式庭園(平成31年度)、イギリス式庭園(平成31年度)それぞれの特徴をまとめ、プルースト作品を庭園理論書、あるいは庭園美学史として読む試みを著作としてまとめる作業を始める予定である。
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Causes of Carryover |
従来は支払請求額通りの支出に基づき研究を進める予定であったが、次年度に当初の予定を上回る物品費および旅費が必要となる見込みから、次年度に回すべき使用額が生じた。その概要は以下の通りである。 平成30年度においては、8-9月に10日程度フランスに渡航し、フランス国立図書館で文献調査を行うほか、30年10月に新潟大学で開催される日本フランス語フランス文学会秋季大会に講演者として招聘するボルドー大学のプルースト研究者Sophie Duval氏に面会し、プルースト研究の方法について打ち合わせを行う。また、年度中に研究作業の能率化を図るため、画像・文献整理および論文執筆用のPCを購入する。31年2-3月には再度フランスに渡航し、フランス国立図書館で文献調査を行う予定である。
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Research Products
(3 results)