2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02593
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
和田 章男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00191817)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス文学 / マルセル・プルースト / 『失われた時を求めて』 / 音楽受容 / 分野横断研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツ音楽(2017年度)、フランス音楽(2018年度)に続けて、2019年度はロシア音楽を中心に、プルーストの音楽受容について調査・研究を実施した。20世紀初頭にはバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)がパリで活動を始め、ロシアの音楽やバレエが一世を風靡した。プルーストがニジンスキーやディアギレフと交流を持ちつつ、小説内に導入したことはすでに知られているが、『スワン家のほうへ』自費出版と同年の1913年にパリで初演された画期的なバレエ作品『春の祭典』(ストラヴィンスキー作曲)をプルーストがどのように評価したかについては証拠が乏しくほとんど知られていなかった。わずかながらに言及されている書簡に基づき、批評家ジャック=エミール・ブランシュが『スワン家のほうへ』に関して書いた記事についての書評(1914年4月24日付「ジュールナル・デ・デバ」紙掲載)は、プルースト自身が書いたものであることを解明し、その中で同批評家の『春の祭典』論と『スワン家のほうへ』論を併置していることに着目した。プルーストにとって、両作は比類のない独創的な作品であるとともに、西洋の伝統的な個人主義に反する匿名性という共通性を持っていることを明らかにした。 2019年9月28-29日の2日間、本助成金により大阪大学で国際シンポジウム「プルーストと受容の美学」を主催した。文学、絵画、音楽、思想、科学など多様な分野におけるプルーストの受容と小説創造の関係をテーマとして、フランス人研究者2名、日本人研究者11名が参加、フランス語で口頭発表、質疑応答を行った。両日とも40名ほどの聴衆が集まり、会場も含めて活発な議論を行った。 本助成金によるプルーストの音楽受容のテーマを含む単著『プルースト 受容と創造』を執筆、大阪大学出版会の教員出版助成に申請し、出版できることとなった(2020年出版予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プルーストによるドイツ音楽、フランス音楽、ロシア音楽の主要な作曲家およびその作品の受容の研究に関しては予定通りに順調に進んでいる。2019年度に主催した国際シンポジウムでは、3名のフランス人研究者を招聘する予定であったが、その内1名が自己都合により急遽来日できなくなった。それ以外にも同シンポジウムの費用が予定より大きく下回ったこと、また研究内容に関しては、さらに進展させる課題もあるため期間延長をすることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画には含めていなかったが、19世紀末から20世紀初頭にかけての第三共和政時代のパリの音楽事情を調べるうちに、同時代に中世、ルネサンス、バロックなどの古楽が復活したことが判明した。プルーストの小説にもバッハ、ヘンデル、ラモー、パレストリーナ等の昔日の音楽家たちへの言及が含まれ、同時代の古楽復活の傾向が反映していることがわかる。期間延長年度である2020年度にはプルーストの古楽受容を中心としながら、親友の音楽家レーナルド・アーンについても調査を進める予定である。 ただし、新型コロナウイルスの影響により、学会や研究会も中止となり、海外出張も国内出張も当面実施できない。フランス国立図書館の検索サイトGALLICA等を活用することにより研究を進めることに支障はないが、本助成金の活用が困難になるかもしれない。本年に単著『プルースト 受容と創造』を大阪大学出版会から出版する予定であるため、献本や研究成果公表のために本助成金を使用することを予定している。
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Causes of Carryover |
2019年9月28‐29日本助成金により開催した国際シンポジウム「プルーストと受容の美学」にフランス人研究者を3名招聘する予定であったが、そのうち1名が来日できなくなったこと、また本シンポジウムに要した費用が予想より下回ったこと、さらには当初の計画にはなかった課題が浮上し、1年の期間延長を企図したことにより、助成金を残すこととなった。 2020年度には大阪大学出版会より出版を予定している単著の献本や研究成果公表関連の費用として本助成金を使用する。また、調査や成果発表のための国内旅費および海外旅費としての使用も予定しているが、新型コロナウイルスの影響により、旅費としての使用は難しくなる可能性がある。
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Research Products
(7 results)