2017 Fiscal Year Research-status Report
西洋古典文学における「カッリマコス主義」の実証的解明を基幹とする作品論研究
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17K02596
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大芝 芳弘 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (70185247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 登 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10507809)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | カッリマコス / 伝統と革新 / 詩論 / ジャンル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来から本研究組織が追究してきた、西洋古典文学における伝統と革新の問題を、特にカッリマコスの詩論すなわちいわゆる「カッリマコス主義」を基幹として、カッリマコスに先立つ文学や哲学における詩作をめぐる考え方との関連、カッリマコス自身の作品におけるその詩論の展開と実践、そしてその詩学の影響を受けた後世の文学とりわけラテン文学における受容と詩作の実践に関して、作品それ自体の形式と内容の両面における綿密な観察と考察を通じて、実証的に究明しようとするものである。 本年度はこの課題への取り組みの初年度に当たるが、カッリマコスの作品それ自体やそれと他の作品との関連に関しては従来の研究においても繰り返し扱ってきた経緯がある。従って、本年度は、これまでの検討・考察を踏まえて、まずはカッリマコス的な詩学を考えるにあたっても、また研究代表者の大芝が関心を深めているホラーティウスとの関連の点でも重要なアリストテレース『詩学』を改めて検討することとした。カッリマコス詩学自体との対比や関連性に加えて、とりわけカッリマコス主義の強い影響下にあるホラーティウスには、特にその『詩論』においてはピロデーモスなどを通じて『詩学』の影響が及んでいると見られるからである。本年度はまた、これもカッリマコスの影響が濃厚なローマ詩人プロペルティウスの作品についても、とりわけ第3巻と第4巻の、自ら「ローマのカッリマコス」と名乗ってまさに「カッリマコス主義」を標榜しながら作られた作品の綿密な検討を行った。さらに、昨年度より継続して考察してきたホラーティウス抒情詩におけるカッリマコス詩学の影響とその変容、またそれと前古典期のサッポーの抒情詩との関連なども視野に入れた論考を公にした。以上のように、本年度はカッリマコスに先立つ詩論的著作と、カッリマコスの影響の強いラテン詩の具体的検討を中心に、一定程度の進捗を見ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに「研究実績の概要」において記したように、従来からのカッリマコス的詩学への関心を踏まえて、その影響下にあるラテン詩人の具体的な作品の検討と考察を継続するとともに、これまで必ずしも十分に検討対象としてこなかったアリストテレースの『詩学』にも考察の目を向けることによって、必ずしもカッリマコスとの直接的関連というのではなくとも、ホラーティウスの『詩論』との関連という側面からは必要な考察対象に幅を広げることができたと考えている。これは今後さらに、例えばプラトンの詩作に関する考え方とカッリマコス的詩論との関係といった関心からの検討を行う場合にも重要な要素となると思われる。同時にまた、特に研究代表者の分担するカッリマコス主義のローマ学への影響の領域については、ホラーティウスとプロペルティウスという二人の詩人の作品について、具体的な検討と考察の作業をある程度進捗させ、あるいは具体的な成果を公表することもできたので、全般的に順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討と考察を踏まえて、今後は引き続きローマ詩人へのカッリマコス主義の影響を跡付ける検討を進める。同時にまた、アリストテレースに加えて、カッリマコスに先立つ詩論的な作品(プラトン、アリストパネースを含む)とカッリマコスとの関連、またカッリマコス作品自体におけるその詩論の実践にも注目していきたい。研究分担者の小池は従来からの悲劇研究に加えて、当面まずはアリストパネースの喜劇作品の読解・検討に着手し、その詩論的要素にも着目していく予定である。研究課題の検討において中心となる研究代表者の大芝は、ホラーティウスの諸作品の各段階で見出されるカッリマコス詩学の影響やそれと他の要素との融合などにも考察を進めるとともに、可能であればプロペルティウスに関する考察を形あるものにまとめる準備に着手したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は主として書籍の購入に大部分を当てたが、書籍代金の端数が必ずしも揃わなかったために数千円ほどの差額が生じたものであり、次年度以降にこれを含めた予算を使用する予定である。
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