2018 Fiscal Year Research-status Report
17・18世紀フランスにおける文献資料に見るモリエールと古典ラテン喜劇作家の受容
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17K02598
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
榎本 恵子 大妻女子大学, 文学部, 講師 (30782867)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス喜劇 / モリエール / 古典ラテン喜劇 / ルイ14世 |
Outline of Annual Research Achievements |
1643年の王位継承から1715年の死までフランスの歴史の中で最も長い治世の中で、ルイ14世は対外的な行動力と内政においてヨーロッパの頂点を極めた。そしてその功績は現在もパリの至る所に記されている。 絶対王政確立におけるルイ14世の政治的手腕の一つとして文化政策があげられるが、その中で国王のイメージ戦略を含む演劇というライヴ・パフォーマンスは欠かせない。そこにはルイ14世のもとで彼の要望に応え続けた喜劇作家モリエールの存在がある。彼の古典ラテン喜劇作家から受け継いできた理想の喜劇を作り続ける劇作法、為政者と観客が求めるものを提供した作品は、「愉しませながら教え諭す」という喜劇の理論を具現化し、21世紀の我々に娯楽としての魅力と17世紀のフランス社会を写しだした文化史としての魅力を提示している。 モリエール劇団の一員ラ・グランジュの『帳簿』と、彼によって劇作家の死後出版された全集、アンドレ・フェリビアンによるヴェルサイユ宮殿における祝祭の公式報告書、モンティニ神父やバラールによる報告書、『ガゼット』、シャルル・ロビネの書簡、財務省に呼ばれたオランダ人ホイヘンスの報告書などがそれらを証明している。モリエールが古典ラテン喜劇作家の後継者であることは、第一に彼の作品がその死後も評価され続けていることに見て取れる。同時に、世紀末になって古典ラテン喜劇作家が再び仏訳され、テレンティウスの作品が翻案されたことにより、フランス喜劇の神髄に古典ラテン喜劇作家が息づいていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主にルイ14世の政治と演劇との関係をさまざまな刊行物から検証した。ルイ14世は3回にわたるヴェルサイユ宮殿での祝祭の中で国内外にその権力を誇示した。そこで、ヴェルサイユにおける祝祭の意味と2回目までの企画の中心にモリエールがいたことを明らかにすることで、モリエールが、演劇という一ジャンルにおいてフランス文学史に大きな影響を及ぼしただけでなく、フランスの絶対君主制とルイ14世のイメージ戦略にも関係していたことが明らかになった。 これらの事実は、演劇の底知れない影響力―かつては、イエズス会がレトリック習得に不可欠なものと認め、その影響力の大きさゆえに全面的に反対したポール=ロワイヤルの選択が思い起こされる―を我々に提示している。これにより今後、革命を前に変化する人々の意識の変遷における演劇の立ち位置を検証していく準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
演劇の力がモリエールの死後のフランスにどのように影響を及ぼしていったのかを検証していく。『社会契約論』ルソー、『百科全書』のディドロ、『カンディード』のヴォルテールも戯曲を書き、演劇を考察しており、モリエールを常に意識していることが見て取れる。それはモリエールの作品の内容に限らず、その劇作法を含む。それは、かつて古典ラテン喜劇作家プラウトゥスとテレンティウスが評価されたのが、その作品ではなく、劇作法であったことを彷彿させる。「フランス喜劇の父」であるモリエールがプラウトゥスとテレンティウスの後継者であることを鑑みるなら、18世紀の知識人たちにはモリエールを通してプラウトゥスとテレンティウスの潜在的な影響力があるということになる。それを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
次年度の出張費、人件費・謝金等の費目及びシンポジウムのための招聘費等用に充てる。
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Research Products
(2 results)