2018 Fiscal Year Research-status Report
近代フランス出版文化の言説における「観光」の視点の形成
Project/Area Number |
17K02599
|
Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
田口 亜紀 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (90600502)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 仏文学 / 観光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「観光」の諸相を明らかにするために、旅行記、ガイドブックといった旅に直接関わる媒体だけではなく、博覧会カタログや雑誌など、大衆に広く読まれていたメディアも研究対象とする。例えばフランス19世紀から20世紀に、異国の風物を紹介する雑誌が刊行されたことを例にとって、異国情緒をかき立て、実際に観光に誘うことになる出版文化のメディアとしての役割にも注目している。 19世紀フランスでは、相次いで万人向けのガイドブックが刊行されたことで、無目的の旅、楽しみのための旅、つまり「観光」という考え方が生まれた。職業作家による旅行記にも「観光」の視点が確認できる。旅行記において立派な旅行者と俗人ツーリストという二分法が生まれた。旅行者とツーリストを分け隔てるものは何であるのか。これを考察するにあたっては、フランスでこの期間に刊行された文献で「観光」に関する語を拾い上げ、この語の指示対象を丹念に追い、付与された意味を検討することで、ヨーロッパにおける近代ツーリズムの勃興期の特質を抽出できると考えた。 当該年度には、19世紀前半の「観光」の意味が変化していったことについて、研究発表を行った。すなわち、日本語の「観光客」「ツーリスト」の指示内容があいまいなように、フランスでも観光客touristeは旅行者voyageurとどう異なるのか、という問いを立て、語の使用によって定義が揺れてきたことを文献での使用例を例に引き、跡づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、観光が意味する内容について、研究発表を行った。いわゆる近代観光の契機となった産業革命や、それ以前に慣習として行われていたグランドツアーはイギリスにおいて生まれたことから、英国人の旅と観光を切り離して考えることはできない。当初、フランス語でtouristeが意味していたのは英国人旅行者であったことからも明らかである。それが時代が下ることでどのように変化していき、また変化のきっかけを作った出来事や文学的な傾向を検討することができた。 そして、文学者の旅について考察するテキストでは、複数のケースを叙述することによって、「ことば」を切り口にした旅の諸相についてまとめることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成31年3月に、イギリスとフランスで資料の調査と収集を目的とした出張を行い、精査すべき資料が集まった。今後は資料の精読と、分類を行い、「観光」へ誘うメディアという観点から、研究課題に取り組む予定である。 「観光」が意味する内容は、十九世紀に大きく変化していった。交通手段の発達が観光を後押ししたことから、高速移動や乗り物の進化が観光の前提とみなされていることも確認できる。例えば、20世紀初頭に生まれた「観光博物館」は馬車や自動車などの乗り物の陳列に主軸が置かれていることが挙げられる。そこでは個人の好みに即した観光という要素と、ガイドブックに指南される紋切り型の観光の型が見られる。余暇として観光が定着していく過程において、メディアが果たした役割について、さらに表象の分析を行っていく計画である。
|
Causes of Carryover |
年度をまたいで行った海外での研究調査旅行の経費を2018年度と2019年度に分けて支払い請求を行った。2019年度4月分の経費はすでに研究機関に請求している。
|
Research Products
(2 results)