2018 Fiscal Year Research-status Report
フランス19世紀文学における信仰とライシテの相克ー棄教と回心の系譜学ー
Project/Area Number |
17K02604
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
江島 泰子 日本大学, 法学部, 教授 (80219261)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | フランス文学 / 19世紀 / カトリック教会 / 反教権主義 / ライシテ / 脱宗教化 / 第三共和政 / 死刑廃止 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)研究に必要な資料の収集:当該年度に発表予定の論文に関連する資料、2019度の学会発表に資する資料を中心に、資料収集を行った。 (2)海外の研究者との面談:デルフィーヌ・グレーズ氏(グルノーブル大学教授、研究対象:ユゴ―)クレール・エヴック氏(元パリ第四大学准教授、研究対象:ルナン、バレス)、モーリス・ガス二エ氏(西ブルターニュ大学名誉准教授、研究対象:ルナン)と面談して、研究に関する意見交換を行った。 (3)海外での研究発表:ルナン学会第50回国際大会(於:コレ―ジュ・ド・フランスおよびソルボンヌ大学)において、「ルナンの日本への導入―近代黎明期における危機の意識が映し出す脱宗教化されたキリスト像―」と題して発表した。 (4)2本の共著の出版:①シンポジウム「デリダと死刑を考える」(2017年10月7日、於:慶応義塾大学教養研究センター)の成果として、「ヴィクトール・ユゴーの死刑廃止論、そしてバダンテール―デリダと考える」が、さらにシンポジウム「「アフリカ・カトリシズム・文化相対主義 ライシテの時代におけるプレ・モダン的徴表のゆくえ」(2018年1月27日、於:東京大学本郷キャンパス)の成果として、「転換期のディスクール―ライシテとフランスの優位性」が、共著として出版された。 (5)学術論文の発表:世紀末のカトリック教会の動向とその信仰の在り方に関する論文(「アンベール・クレリサックにおけるキリストと聖パウロ、そして教会―キリスト教における脱宗教化の一考察」を学会誌(『国際文化表現研究』)に発表した。 (6)前年度に学部に招へいしたトゥール大学教授ジュリエット・グランジュ氏の講演「フランスにおけるライシテの観念」を日本語に訳して、学部紀要(『桜文論叢』)に発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」とした理由は、前年度における遅れの理由と重複しており、3つある。まず第一は、共著論文「転換期のディスクール―ライシテとフランスの優位性」と、国際学会発表「ルナンの日本への導入―近代黎明期における危機の意識が映し出す脱宗教化されたキリスト像―」が、ともに本研究の主軸をなす「脱宗教性」「脱宗教化」の問題をその関心の中心にすえている点では本研究の射程に属するが、当初に措定した枠組みをやや拡大するような内容となったことである。ただし、枠組みの拡大は、学会活動および研究者間の協働という研究の動的な側面からの必然的要請であり、研究者にとってむしろ歓迎すべき事柄である。こうした枠組みの拡大をも吸収して成立する全体ヴィジョンの策定を急ぐ必要があると考える。第二に、資料収集の遅れがある。当該年度に予定されている口頭発表あるいは論文発表に関連する資料の収集に追われ、全体計画の中で必要な資料の収集が一部遅れている。これについては前年度と似た状況であったため、全体ヴィジョンの再検討と同時並行的に行う必要がある。第三に、ルナン学会の総会が例年とは異なる日程(1月末)となり、期末試験・成績提出と重なって参加ができず、草稿研究の確認、国際大会発表の出版に関する打ち合わせなどの学会活動に十分に関われなかった点である。これについては、2019年度は学会活動等への参与を積極的に行いたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
―研究の枠組み拡大に対応する全体ヴィジョンの再構築を行う。全体ヴィジョンの策定を受けて、必要な資料の再検討を行い、収集する。 ―ライシテと死刑問題を結びつける論考の執筆を行う。当該年度にユゴーの死刑廃止論に関する論文を発表したが、ユゴーにおいてライシテと死刑廃止問題がどのように関連しているのかを明確に提示する必要があると考える。これはユゴーという作家において二つの異なる問題系を連結させる試みであり、本研究全体にとって不可欠なものである。 ―開かれた研究の在り方の推進:国内外の研究者との連携を行う:ユーゴ―の専門家であるD.グレーズ氏などの海外の研究者との連携を引き続き行い、必要な情報を得ていく。また国内学会への参加(日本キリスト教文学会全国大会<5月11日、於:国際基督教大学>での発表を予定)を行い、さらに死刑問題を多角的に考えるために死刑に関する講演会や集会に足を運ぶ。またルナン学会については、総会や定例会を欠かさないようにして、ルナンとライシテに関する情報交換を行っていく。 ―当該年度に行ったルナン学会第50回国際大会での発表を再検証・加筆して、『ルナン学会誌』に発表する。 ー学会誌発表論文「アンベール・クレリサックにおけるキリストと聖パウロ、そして教会―キリスト教における脱宗教化の一考察」で取り上げたナショナリズムと信仰の問題を発展的に検証し、他の作家の作品へと考察を進める。
|
Causes of Carryover |
理由は①資料収集の遅れ ②ルナン学会の総会・定例会への参加が年一回になってしまっていて、渡航費用が使用されていないことにある。①については、慎重に資料を選ぶためには精査が必要だが、論文執筆や発表準備に追われて、直近の研究活動に関わらない資料については、後回しになっている。②については、2018年度は本学部図書館が所持するサン=シモンコレクションの紹介のため2月に渡仏して講演を行ったため、入試業務との関係も含めて3月のルナン学会の例会出席を断念した。当該年度は1月末にルナン学会の総会があり、学期末試験・成績提出と重なり出席できなかった。 対策としては、本研究の全体ヴィジョンの再検討を行うことで、必要資料の範疇を確定して、収集に努める。さらに、海外での学会活動、資料収集活動をより活発に行うことを企図している。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Book] デリダと死刑を考える2018
Author(s)
高桑 和巳, 石塚 伸一, 江島 泰子, 梅田 孝太, 増田 一夫, 鵜飼 哲, 郷原 佳以
Total Pages
270
Publisher
白水社
ISBN
4560096716