2019 Fiscal Year Research-status Report
フランス19世紀文学における信仰とライシテの相克ー棄教と回心の系譜学ー
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17K02604
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
江島 泰子 日本大学, 法学部, 教授 (80219261)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脱宗教性 / キリスト教 / フランス文学 / 19世紀 / 死刑廃止論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アルフレッド・ド・ヴィニーの研究を中心にすえ、ヴィニーとの関連の枠組みにおいて、サン=シモン主義に関する調査をも展開した。 文献収集に関しては、8月と12月の二度渡仏した際に、フランス国立図書館およびアルスナル図書館にて、ヴィニーとサン=シモン主義関連の文献を調査した。渡仏の際に、トゥール大学教授ジュリエット・グランジュ氏、ソルボンヌ大学(パリIV)元准教授クレール・エベック氏、リヨン第二大学名誉教授ローディス・レタ氏、西ブルターニュ大学名誉准教授モーリス・ガス二エ氏と面談して、研究に関する意見交換を行った。 12月の渡仏の折には、ルナン学会の理事会および総会に参加した。第50回記念大会においての発表 (11月17日於パリ第4大学 「日本へのルナン作品の導入―脱宗教化したキリスト像と近代黎明期における危機意識へのその照射」)は『ルナン研究』に収められ、クラッシック・ガルニエ社から出版されることになった。ただし、二分冊の2冊目に収められることになった本発表の出版は、2021年初頭になる見通しである。同内容がインターネットの論文公開サイト「ペルセ」に掲載されることも決まった。来年度の大会については、テーマとして継続している「カリカチュア」が取り上げられ、「ライシテ」の問題は2021年以降に扱われることになった。草稿の研究に関しては、膨大な時間を必要とすることと、勤務校が所持するサン=シモン・コレクション中の草稿の読解を行なっているため、他の学会員に任せている状態である。 成果公開については、2019年5月に行われた日本キリスト教文学会の全国大会での発表(「アルフレッド・ド・ヴィニーにおける脱宗教性ー『ダフネ』を中心に)が、2020年度4月発行の『キリスト教文学研究』37号に掲載された。公開予定のもう一つの論文は、2020年9月発行の学部紀要に掲載を目ざしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年12月末に急性大動脈解離で6時間に及ぶ手術を受けた。冬休みの間に、ヴィニーとサン=シモン主義に関する論文に集中的に取り掛かり完成させる予定であったが、それが手術とそれに続く療養のために果たせなかった。1月は成績評価の提出を行わねばならなかったため、11日に退院して、同僚等の介助を受けながら授業と試験を行った。しかし、それに続く3か月間は病気療養のため、研究を十全なかたちで行える状態になかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは「「社会派詩人ヴィニー?― 『脱宗教性』から見たサン=シモン主義との接点 ―」を9月発行の学部紀要に発表するため、6月に投稿する。現在研究の対象としているのが、ピエール=シモン・バランシュの思想である。バランシュについては、脱宗教性の視点から彼の死刑廃止論をユゴーの主張と比較検討するため、資料調査を行っている。次には、政治家ジャン・ジョレスのライシテと宗教に関する思想を取り上げる。ジョレスの思想は、2008年の死刑廃止をめぐる議会演説でも明らかなとおり、文学の視点からの研究に多くの示唆を提供するものである。彼の死刑廃止論についてはすでに論文(「ユゴーからバダンテールへ―その継承のかたち―」桜文論叢91巻 2016 )の中で一部言及したため、それをさらに深化発展させるかたちで、ユゴーとの関連も考慮しつつ検証する。それに加えて、19世紀から20世紀にかけての宗教思想家たちの思索についても継続して取り扱う。 今年度も渡仏しての現地調査および研究者との意見交換、ならびにルナン学会参加を計画に入れた。 今年度は研究の最終年であるため、研究成果をまとめあげる必要がある。そのために、全体を統一的に結びつける構造を策定する。 一方、コロナ禍の中で、解消されつつあるものの、海外発注した書籍の入手に時間を要する。国内発注の書籍についても大学が閉まっているため、入手手段が通常通りではない。さらに、コロナウイルス対策として大学がオンライン授業に移行し、勤務学部では8月29日までが前期授業期間となったため、ロックダウンが緩和されて渡仏が可能となった場合でも、8月から9月にかけてのフランスでの研究活動は困難と考える。また11月末に予定されているルナン学会大会についても、参加の可否はコロナ問題が沈静するかどうか次第である。それらを勘案しつつ、できる限りエフォート率をあげて成果を出していく。
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Causes of Carryover |
2019年8月の渡仏時における活動は学部研究費での研究テーマをも含むものであったため、学部研究費を使用したこと。さらに2020年3月にルナン学会の研究会(於パリ第4大学)出席を予定していたが、研究者自身の病気療養とコロナウイルス禍のために実現できなかったことが主たる理由である。 使用計画について。2020年初頭から、コロナウイルス蔓延の影響で国境封鎖が続く中、研究に必要な書籍の購入が滞る状態が続いた。また、コロナ禍と勤務校での前期授業期間延長(8月29日まで)により、8月に予定していたパリ国立図書館での資料調査は実現が難しい見通しである。また11月予定の渡仏についても不確定要素がある。そうした中で現在検討しているのは、研究者本人が病気療養のため十全な研究活動ができなかた時期が長期にわたったことも勘案して、研究期間の一年延長を申請することである。予算の執行については、上記の理由から不可抗力的な側面があると考える。2020年度の末になってから具体的には決定するつもりである。一年間の研究延長を申請したうえで、今までの研究成果を一冊の書籍としてまとめて出版費用に予算を使用することが可能であれば、それも一つの案として視野に入れる。
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Research Products
(2 results)