2020 Fiscal Year Research-status Report
フランス19世紀文学における信仰とライシテの相克ー棄教と回心の系譜学ー
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17K02604
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
江島 泰子 日本大学, 法学部, 教授 (80219261)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フランス文学 / 19世紀 / キリスト教 / 脱宗教性 / 死刑廃止論 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献収集・資料調査および海外の研究者との意見交換のために渡仏を予定していたが、コロナウイルス感染拡大の影響により実現できなかった。11月に予定されていたパリ・ロマン主義美術館でのルナン学会のシンポジウムおよび総会に出席するため渡仏する予定であったが、コロナ禍が原因で中止となった。したがって、年間2度の渡仏計画を実現することができなかった。 ルナン学会の総会および理事会が1月末にZoomにて開催され、参加した。引き続き継続して理事として学会運営に加わることになった。さらに、2年後に予定されているルナン生誕二百年記念大会では、その中心テーマとして「ライシテ」が採用されることが総会でほぼ決定した。当初は、研究の完成年である2021年に「ライシテ」をテーマとする学会の開催を企図していた。したがって2年遅れることになったが、生誕二百年の記念学会でテーマとして取り上げられることは非常に意義があると考える。ルナンの劇作の草稿研究については、渡仏して草稿を確認することが難しい状況であるとともに膨大な時間を要することもあり、他の学会員に作業を委ねている。一方で脱宗教性に関連して重要な作品である『新しいキリスト教』の著者サン=シモンの草稿(日本大学法学部所有)の読解を進めており、今年度中に一部を公開する予定である。 成果公開であるが、「社会派詩人ヴィニー?『脱宗教化』から見たサン=シモン主義との接点をめぐって」を10月に発表し、さらに「バランシュにおける“現行のエポプティスム”と死刑廃止論」は年度をまたぐが4月が発行月となった。ルナン学会第50回記念大会において発表した「日本へのルナン作品の導入ー脱宗教化したキリスト像と近代黎明期における危機意識へのその照射」の完成原稿を9月に提出しており、2021年(令和3年)中にクラシック・ガルニエ社から出版される『ルナン研究』に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
要因の第一は、令和元年度の実施状況報告書に記載したとおり、1月に急性大動脈解離で手術を受けたのち、回復に時間がかかったことである。第二に、勤務校において令和2年度の授業が全面オンライン実施となり、ITの知識が不足していたことが原因で、オンデマンド講義の作成・配信・課題添削等に膨大な時間を要したことが挙げられる。さらに、コロナ感染症の影響と体調の問題から渡仏が困難となり、また世界的な疫病の流行がさまざまなかたちで研究活動を阻害したことが、本研究遂行にあたって大きな障害となったこともある。 以上のような理由から、本年度が研究計画遂行の最終年度であったが、予定通りの完成は不可能であると判断し、本年度は科研費の使用を行わなかった。研究継続を希望して延長申請を提出したところ承認されたため、令和3年度の完成を目指して課題への取り組みを継続することが可能となった。 一方、令和3年度に関しても、コロナ感染症の流行が収束にいたっていない中、引き続き渡仏は難しい状況にある。そのため、研究計画にかなりの変更を加えざるをえない。とはいえ、現在は健康状態も回復してきており、また教育活動に関しても昨年度のような問題は目下のところ存在していない。 上記のような理由から、「やや遅れている」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究成果報告書の作成・提出を目標とする。当初は、全体を一つにまとめて出版することをも構想していたが、それについてはいくつかの検討すべき点が生じた。一つ目は、二つの共著『デリダと死刑を考える』(白水社 平成30年 11月)と『混沌の共和国 「文明化の使命」の時代における渡世のディスクール』に掲載された論文(「転換期のディスクールーライシテとフランスの優位性」、「ヴィクトルユゴーの死刑廃止論、そしてバダンテールーデリダと考える」)に関連する。これらは科研費研究の成果であるが、すでに出版されているため新たな著書に組み入れることが難しいと考える。一方で、当初から予定されていたものではないこれらの共著は、他の研究者たちとの共同作業であって、研究者本人にとっては新たな視野を開く非常に意義深いものとなった。さらにもう一つは、『ルナン研究』(Bulletin des Etudes renaniennes)に掲載予定の「「日本へのルナン作品の導入ー脱宗教化したキリスト像と近代黎明期における危機意識へのその照射」に関連する。このフランス語論文はルナンに関して新たな諸発見をもたらす内容となっており、本課題の新機軸の成果であると考えているが、全体の統一性という観点からはやや異質であることは否めない。 以上のような事情から、課題テーマに関連する論考の作成を継続しつつも、研究成果報告書の出版は本年度については断念する予定である。その一方、本課題の射程の一つであった「フランス型死刑廃止論」の発信という社会貢献に関連する営為については、出版という可能性も一つの選択肢であると考える。疫病の流行という特異な社会状況の中で課題の遂行に変更を加えざるを得ない中、昨年度に未使用にした科研費の有効で意義ある利用用法として、他の可能性も考慮しつつ、さらに検討を行う。
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Causes of Carryover |
本年度については、研究者本人の術後の回復が遅れたこと、さらにコロナ感染症拡大にともない勤務校が全面オンライン授業に移行したによる教育活動の負担増大が挙げられる。本人のIT能力の低さもあってオンデマンド授業の作成・配信・課題添削に多大な時間を要し、研究のエフォート率を大幅に下げる結果となった。また、本人の体調不備に加えて国境封鎖により、二度予定されていた渡仏ができなくなったこともある。その結果、本年度は十全の研究活動ができないと判断して、科研費助成金の使用を行わなかった。 次年度分の助成金については、引き続き海外渡航等が困難な状況の中、研究成果の公表に使用することを念頭に置いている。具体的には、研究成果報告書の作成とそれに関連する費用および社会貢献の事項と関わる成果の一部(「死刑廃止論」関連)を公開するための出版費である。また、全体を勘案しながら、一部を文献収集に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)