2017 Fiscal Year Research-status Report
Brightness and Colour: Studies on their Interconnection and Representations in the Literature of Antiquity
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17K02608
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
西塔 由貴子 京都精華大学, 人文学部, 特別研究員 (60411948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ホメロス / Homer / 光と輝き / 色彩表現 / 表象 / イメージとシンボル / argos / ジェンダー / leukos |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は主に今後の分析考察の為の文献収集・精査・整理を試み、ホメロスにある「光」「輝き」を表わす古代ギリシア語、特に argos とそれに関連する表現の分析考察に取り組んだ。 7月第16回ギリシア・ローマ神話学研究会と共催で研究発表会を開催、協力者である戸高和弘氏が「ホメロスにおける崇高─ロンギノス『崇高について』より」という題で研究発表。 夏季は、英国リヴァプール大学に赴き、大学図書館・書庫で文献収集・論文執筆を行った。9月にドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンで開催された学会(The Other Crowd)にて、眠りの神と関連する色彩表現に着目し、そのイメージや表象、作品中における役割について研究発表を行った。海外の研究者と本研究内容について意見交換を行い、今後の研究の進め方等について助言を受けた。この学会での発表は、将来出版することが予定されている。 春季には、アテネのブリティッシュ・スクール(BSA)に滞在して研究活動に専念。3月にスペインのマドリード大学で開催された国際学会(Gender's Fault)にて研究発表、色彩からみるジェンダーの考察を試みた。また、アテネの西洋古典学研究所(IHR / NHRF)で講演する機会を与えられ、現地で活躍する研究者からのフィードバックと共に、今後の研究の展望や方向性について非常に有意義な情報やアドバイスを得ることができた。さらに、アテネ市内の他の研究機関で行われるセミナーやオープンミーティングに参加し、西洋古典学全般の最新の研究動向について見識を広げることができた。この間、市内の遺跡や博物館等を訪れ、当時の建物に差し込む光の輝きを目の当たりにし、その感覚を肌で感じながら考えることができたのは価値ある体験であった。 現在、Argos、leukos、leirioeis を比較検討した論文2編を印刷中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「光」と「輝き」を表わす表現が膨大にあることがわかったが、少しずつ丁寧に調べ始め、研究発表3回、印刷中の論文2編と初年度としてはある程度の成果を出せたと考えている。 国内では入手困難、且つネット上でももう手に入らないような古い文献などを閲覧するのに予想以上に時間がかかっている。海外の研究機関を利用する際、限られた時間を最大限に活用すべく効率的に動いたつもりであるが、精査すべき文献はまだまだ多い。未だに議論の続く、「輝く」や「銀色の」又は「速い」をも意味する argos をさらに掘り下げて考察を進め、光と輝きが内包する〈正〉と〈負〉という対照的な二重の象徴性、そして『イリアス』という物語の中で、「輝く」に関連する色彩表現の一つ argos という言葉が、「動き」や「音」とうまく組みあわされて使用され、オーケストラのように総合的な調和をそれぞれの場面に生み出している。光を認識しながら、巧みに配置された明暗の色彩表現は、西洋古典文学に通底する表現手法であり、それは詩人の物語作成の技巧の一つである、という仮説を提示するに至った。これらの成果を、光や輝きに着目しながらも、音や動きとの連関性をさらに詳らかにする為の最初のステップとして位置づけ、今後の研究へのステップ・アップとしたい。 春季の海外滞在中、BSA 他の研究機関にも繰り返し赴き文献収集を試みる予定であったが、研究発表2回分の準備に時間を割くことになった為、例えば ASCSA での文献調査を断念さぜるを得なかった点は悔やまれる。海外での大学図書館・書庫では、閲覧を希望した文献が不明だったり、想定外のことがある。今後より一層念入りに準備して、万全の状態で望みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
・文献渉猟の継続。昨年度できなかった海外研究機関での文献、史料の収集・閲覧を行う。「輝く」や「光」等の表現に関する文献は多岐にわたる為、昨年度に引き続き、研究遂行に必要な文献の収集を継続する。 ・引き続き、欧米での学会発表の機会を求め、可能な限り応募していく。この点については、海外の研究者からの助言を参考にしながら臨む。海外の研究者の助言は大変参考になり、今後も多角的な視点からのアドバイスを受ける。 ・英国の大学図書館、Classical Institute、BSA(アテネ)や他の研究機関で閲覧・精査すべき文献はまだ大量にある。初年度の訪問では不十分であった点を反省し、次回の再訪問につなげる。文献収集の仕方を学んだので、今後は時間的にも効果的な現地での文献収集・分析考察が期待できる。
今後もホメロスを中心に、一つ一つの用語を丁寧に分析し考察を行って行く予定だが、具体的な考察に係る主な焦点は、以下の4点である。(1)認識論とも関わる「光」や「輝き」を示す表現の処理。初年度ほぼ手に取ることのなかったプラトンやアリストテレスなど哲学関連図書の精査にも取り組む。(2)初年度は argos に集中したが、marmareos や aiolos など他の用語の分析考察とそれらの用語の比較検討。つまりどのような場面でどのような役割を果たしているか、作品中における文学的効果、イメージやシンボルを探る。(3)革新的な点として、「音」と「動き」との関連性の探求。光り輝く見事な景色の傍観者としての作品中の登場人物と我々(読者)の認識の相違または類似という視点も念頭に入れながら考察を進める。(4)年度末スペインの学会で触れることになった、色彩表現に見るジェンダーへの着手。ジェンダーの取り扱いについては細心の注意を払いながら、男女間での色彩表現の違いにも着目して考察を進めてみたい。
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Causes of Carryover |
(理由) 春季の海外出張(ギリシア・スペイン)の諸経費の支出は、事務処理の都合上、次年度の4月に計上され、繰越されているが、次年度使用額のほとんどを占めている。物品費として計上した研究資料購入費に関しては、文献・史料の精査・渉猟に傾注したため、購入に至らなかった。 (使用計画) 上述の研究文献・史料渉猟にかかる諸経費、旅費を次年度に使用する。また、収集した史料の考察に必要な関連図書の購入、研究成果発表に要する学会参加費、旅費等にかかる経費に研究費未使用額を充てる。
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