2018 Fiscal Year Research-status Report
Brightness and Colour: Studies on their Interconnection and Representations in the Literature of Antiquity
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17K02608
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
西塔 由貴子 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (60411948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 色彩表現の表象性 / ホメロス叙事詩 / 色と輝き / 『イリアス』『オデュッセイア』 / 物語の創造性 / 色彩とシンボル / 色彩表現とジェンダー / 共感覚(synaesthesia) |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、文献収集・精査・整理を試み、ホメロスにある「光」「輝き」を表す表現の分析・考察に取り組んだ。 6月文芸学研究会にて、輝きを表す古代ギリシア語の一つ marmareos に焦点をあて、その表象や『イリアス』における役割について研究発表を行い、現在論文として執筆中。夏季は英国の大学図書館に赴き、研究成果をまとめる作業に取り組んだ。また、当初2019年に計画していた外国人研究者招聘講演会は、彼らの多忙なスケジュールの都合上2020年春に実施することになった。春季は、アテネのブリティッシュ・スクール(BSA)に滞在し、さらに執筆活動に専念した。BSA だけでなく、ASCSAなどの他の研究機関で開催される研究会やオープンミーティングなどに参加し、世界で活躍する斯界研究者と交流し、最新の研究動向について見識を深めることができた。この間に論文を一本提出したが受理されず、他の雑誌に投稿すべく現在修正・編集中。 昨年度スペインの国際学会(Madrid)での研究発表は論文として提出済み、 Proceeding として出版されることが予定されており、現在連絡待ちである。「印刷中」の論文は提出・修正をしてから予想のほか時間がかかっている。色彩表現に見るジェンダーという観点から執筆した論文が Electra というギリシアの雑誌に、argos、leukos、leirioeis を比較検討した論文が HARTS&MindsのChromatography 特集号に掲載された。今年度は海外で研究発表せず、海外出張中はとにかく精査と分析考察に専心したことにより、自分の研究内容をじっくりと見つめ直すことができた。「色」とは「覆うこと」という一つの語源を起点として、肌身を覆う・隠す、つまり色は隠して騙すことに繋がるという視点とジェンダーとの連関性への着眼は、今後の考察の方向性に有為な視座となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
光や輝きに関連する表現は膨大で且つ予想以上に分析するのが難解であることを肌で感じとった。輝くものの奥底にあるもの、その表象性は非常に込み入っているため、まず考察の方向性を注意深く見定めて絞り込むこと、さらに一つ一つの言葉を丹念に調べることが必要不可欠であることに改めて気づかされた。光・輝きに関連する色合いについては、次の研究課題として残す可能性がある。 昨年ドイツ・ミュンヘンの国際学会での研究発表は、当初 Conference Proceeding として出版することが予定され、そのため改稿していたが、諸般の事情により Proceeding の出版は実現には至らなかった。そして昨年後半に執筆したものの受理に至らなかった論文が一つ。これらの論文2本を、他の雑誌または研究文献に投稿すべく、現在思索中である。国際誌への掲載は時間がかかるため、現在手元にあるこれらの論文を何としても形にしたい。 その一方で、研究発表1回(輝きを表わす marmareos について)、色彩表現とジェンダーという視点に取り組んだ論文、白を基調に光や輝きを示す言葉の比較検討を行った論文が、推敲に推敲を重ねた結果、国際誌に掲載されたのは意義ある研究成果だった。 光に内包される〈正〉と〈負〉という二重性、その表象が、物語の文脈にどのように編み込まれているのか、色、音、そして動きという三つのファクターとともに考え合わせて考察し、均整のとれた場面描写について信憑性を深めるため、さらに丹念に調べて解明していく必要がある。限られた時間を最大限に活かすべく動いたが、文献の精査と古代ギリシア語の綿密な調査にかかる時間の確保に難渋している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究遂行のための具体的な推進方策は以下の通りである。 (1) 文献渉猟の継続。日本国内では入手困難な文献が多いので、海外の研究機関を含め、研究遂行に必要な文献、史料の収集を継続し、精査・分析考察に取り組む。今年度の海外研究では不十分であった点を反省し、次の海外調査につなげる。海外の研究施設の利用法や資料検索にも慣れたので、今後はより効率的な文献収集・分析考察に邁進する。 (2) 上述の現在模索中の論文2本を含め、引き続き、欧米での学会発表と出版の機会を求め、可能な限り応募していく。2月に提出した要旨が受理され、9月上旬スイス・ベルンで開催される国際学会 (European Association of Archaeologists)での発表が確定済。発表者として参加し、多くの研究者からのフィードバックや助言を期待したい。 (3) 2018年6月の研究発表の内容(marmareos)をまとめる。 (4) 2020年春実施の講演会に向けてさらに具体的な調整に取りかかる。 今後もホメロスを中心に、aiolos や sigaloeis などの未着手の用語一つ一つを丁寧に分析し考察を行い、ホメロスに見られる色の輝きと音と動きが見事に調和した場面描写を解明していく予定であるが、今後、分析考察した内容をまとめ、信憑性のある且つ有意義な業績を挙げるためには時間の効果的な使用を至上命題と位置づける。
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Causes of Carryover |
物品費として計上した研究資料購入費に関しては、文献・史料の精査・渉猟に傾注したため、購入に至らなかった。また、外国人研究者招聘講演会に係る諸経費を考慮し、購入を控えたという事実も否めない。 (今後の使用計画) 上述の研究文献・史料渉猟にかかる諸経費、旅費を次年度に使用する。また、収集した史料の考察に必要な関連図書の購入、研究成果発表に要する学会参加費、 旅費等にかかる経費に研究費未使用額を充てる。
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