2019 Fiscal Year Research-status Report
Brightness and Colour: Studies on their Interconnection and Representations in the Literature of Antiquity
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17K02608
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
西塔 由貴子 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (60411948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光と輝き / 色彩表現の表象性 / 認識論 / 共感覚(synaesthesia) / 紫(Purple) 、青(Blue)の多彩性 / 海 / 物語の創造性 / ホメロス叙事詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献の収集・精査・整理を継続するとともに、「光」「輝き」を表す表現の役割を解明すべく、さらに掘り下げて分析・考察に臨んだ。 夏季は、英国の大学図書館にて論文執筆と研究発表の準備、9月にスイスで開催された国際学会(European Association of Archaeologists)において研究発表を行った。(1) 歴史上特異な経緯を持つ purple(紫)の上に映える輝きと動き、(2) その言葉の下にある真相、そして (3) purple の輝きを観る者の感覚の連関性という新たな視点に重点を置き、今後の研究の方向性を示唆する有意義な講評を得ることができた。このパネルにおいて出版企画が持ちあがり、2020年11月の締切に向け、現在、鋭意論文の執筆中。また、古代の色や織物、染料に関心のある世界の考古学者たちと交流を深め、青に焦点をあてたデンマークの国際学会(The Colour Blue in Ancient Egypt and Sudan)でのポスター発表へと結びついた。この学会も本を刊行する予定と聞いており、現在連絡待ち。 春季のギリシアへの出張は残念ながら、非生産的であった。「葡萄酒色の海」に着手、道筋が僅かながらも垣間見えたところで、遺跡も博物館も閉鎖され、研究会等も全て中止となった。この出張の間、2020年4月実施予定であった招聘講演会も国外渡航不能により中止。出国禁止の直前に帰国の途につくなど、研究に集中できる環境ではなかった。さらに、前年度スペインでの学会発表をまとめた提出済の論文に加え、2019年末と2020年初に欧米の雑誌へ提出・査読に進んだはずの論文2編も、現時点で連絡がない。CV19 による研究遂行への影響は、今後も続くことが懸念される。
2018年の研究発表を発展的に加筆・修正した marmareos の表象性を扱った論文は『文芸学研究』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
光や輝きに関連する表現を考察するにあたり考慮すべき方向性・視点の難しさを昨年度十分に理解し、未着手の表現の分析考察に取り組む予定であった。研究課題の一つに「葡萄酒色の海(oinopa ponton)」を掲げたが、文献の渉猟に留まり、次に持ち越す可能性がある。先行研究の把握・文献の精査も含め、授業のない期間に研究に集中する計画であったが、春季以降、手が回らない状況が続いている。 (1)「光」に内包される〈正〉と〈負〉という対極項の二重性を示し、色の上に映える光、それに伴う音と動きの連関性を、先行研究である認識論や共感覚を取り込みながら物語を観る、という視点を提示するに至ったことには意義があった。 (2) 夏の国際学会では世界で活躍する研究者たちとの交流により、文学とは異なる見地から染料や織物に関する最先端の考古学や歴史学的な研究の動向に触れることができ、より広範な視点から考察する機会を得、非常に有意義であった。 (3) 一方、CV-19の影響は深刻で、春季アテネで光・輝きに関する表現の考察に集中する予定だったが、成果はほぼないと言わざるを得ない。滞在中、「海」に関する文献の検索・精査を開始、海の多面的な役割や表象性を本格的に分析考察しようと思っていた矢先に CV-19が到来。招聘講演会をまとめ雑誌に掲載するという話も立ち消え。上述の11月締切の論文、現在連絡待ちの学会論文集刊行の企画、さらに、提出済の論文3本(スペイン、英国、イタリア)については、出版につながらず非常に憂慮される。企画自体が消滅する(した)可能性もあり、対応を検討する。 (4) 授業形態の変更により、現在、毎日が自転車操業の様相を呈しており、この状態が続けば、おそらく2020年は研究に専念することもままならないであろうが、業績につながらない可能性が危惧される制約された環境下で、可能な限りの成果を導き出すことを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
CV19の深刻な影響下、全てが不明瞭な状況で推進方策を記載すること自体困難を伴うが、現時点では以下のような推進方策を立てている。 (1) 文献渉猟の継続および文献を精査・整理し、未着手の光・輝きに関する表現の分析考察に取り組む。可能ならば、今まで考察した用語との比較検討を行い包括的な見解を打ち出す。上述の「葡萄酒色の海」については、「海」の表象性やその歴史・役割と共に「葡萄酒色」と表現する側の感覚の相違を解明し一定の見解を提示する。 (2) 前述の11月締切、そして連絡待ちの学会論文集のほか、分析考察の結果をまとめ、欧米での発表や出版の機会を渉猟し、応募する。想定していた国際学会も中止または2021年へ延期になり、事実上学会への参加も困難ではあるものの、オンライン上での学会や研究会が散見され、時差を考慮しながら参加を試み、知識の幅を広げたい。提出済の論文については、根気よく待つしかないのかもしれないが、今後、様子を見ながら連絡をしてみて応答がなければ、提出済みではあるものの、この宙に浮いたままの論文をどう扱うべきなのか、検討し、公表の方向性を探る。 (3) 外国人招聘講演会について:幸いなことに先方は日程の再調整を検討する意向である。しかし、CV19の終息が見えない現状では、目処が立たない。なんとか再調整・実施に持ち込みたいが、2020年度内はおそらく無理であろう。 今後も、色の上に映える輝きと、音そして動きが調和した光景として描かれる物語の一場面を、映画のワンシーンのように観るという視点を貫き、色彩豊かな物語の創造性を提示するため、一つ一つの用語を析出・検証して確度の高い研究成果に導くことを目指す。遠隔授業への対応に追われ研究に邁進する余裕がないのはいずれの研究者においても同様であり、間隙を縫って後半に巻き返しを図りたい。
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Causes of Carryover |
2020年(次年度)4月に開催予定であった外国人研究者招聘講演会が1ヶ月前に中止となった。先方は、コロナウィルス終息後に日程の再調整を試みてくれるのだが、現時点で目処が立っていない。今後の状況次第だが、外国人招聘講演会は2021年の可能性も出てきたため、講演会にかかる諸経費を保留しておく必要があると考える。 (今後の使用計画)研究文献・史料渉猟にかかる諸経費を次年度に使用する。また、分析考察に必要な関連図書の購入・研究成果発表に要する諸経費を研究未使用額に充てる。一方、招聘講演会延期の見通しとなったため、講演会にかかる諸経費を勘案すると、2020年内の文献購入も控える必要があると思われる。オンライン上の学会や研究会には、可能な場合に参加、また、2020年後半以降、国際学会開催の動向を鑑みながら、学会参加可能の機会を得ればその諸経費を使用する。
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