2018 Fiscal Year Research-status Report
Re-evaluation of Biblical Philanthropical Principles: A Study of Metaphor-Mix to Overcome Violence behind the Ultimate Love-Command
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17K02609
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
浅野 淳博 関西学院大学, 神学部, 教授 (20409139)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 贖罪論 / パウロ神学 / 殉教思想 / マカバイ書 / パウロの倫理 / パウロの改宗 / 新約聖書神学 / 社会的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、パウロの贖罪論に影響を与えたマカバイ殉教思想がいかに200-300年のあいだにその強調点を変化させながら継承されたかを詳細に分析した。とくにIIマカバイ書とIVマカバイ書とを比較して、これらのあいだでマカバイ戦争の報告がいかに変化したかを詳細に分類した。これは、やがてパウロ神学が形成される過程を確定する重要な作業である。殉教思想という被害者意識の陰にひそむ加害者行為を指摘し、これがパウロにおいて暴露され、パウロ神学において最終的に加害者行為から脱却するという道筋を立てるための、準備段階となった。このパウロによる暴露は、パウロの改宗と密接に関連するが、その模様について、3月に行った講演会で公表した。この過程を分析する際に、コナートンとアルヴァックスによる社会的記憶という社会科学理論を援用する初期の試みを行った。この成果は、11月に開催されたSociety of Biblical Literatureの例会で発表した。この点に関しては、より高度な理論の適用が望まれるので、2019年度の課題としたい。科研費による本研究:「愛他精神に潜む暴力性」からの脱却を提案するために、パウロ神学においてこの基礎がなされたことを明示することは、キリスト教博愛原理への批判にどこまで同意し、どこから反論するか、その線引きをするために非常に重要な作業である。2年目の研究を通して、この点の見通しが立ったことは、本研究を4年間で終了する計画に、十分な確証を与えるものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究実績で述べたとおり、当初の予定どおりに研究が進んでおり、4年間で研究に一つの節目を付けることが充分に期待される。2018年度は以下の仕方で研究公表を行った。 (1)日本宗教学会2018年度学術大会でのシンポジウム「キリスト教殉教と歴史的記憶」での発表「マカバイ殉教者を記憶する初代教会の思想」(9月)。 (2)Society of Biblical Literature 2018 (Denver)での発表:How Were the Maccabean Martyrs Remembered in Paul's Letters?:A Social-Scientific Approach to Paul's Self-Understanding and Theology (11月). (3)第39回キリスト教文化講演会「旧くて新しいパウロの視点:伝統・啓示・宣教のタペストリ」(3月)。 (4)J.D.G. ダン『使徒パウロの神学』浅野淳博訳、教文館(3月)の発刊。 (1)と(2)では、マカバイ戦争と殉教者の記憶がいかに継承されたかに関する分析を、研究発表という仕方で公表した。(2)ではとくに社会的記憶の理論を適用した。(3)は、ユダヤ教伝統の記憶継承がパウロ神学にいかなる影響を与えたか、またパウロの改宗体験が、いかなる特徴を神学形成に及ぼしたかに関して講演を行った。(4)の訳書の刊行は補足だが、この翻訳作業をとおして、パウロの神学形成に関して、自分なりの立場を確定させる助けとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、パウロの贖罪論の形成を、より広い視野で捉えるため、その影響史を後2世紀の使徒教父文書に見出し、パウロに始まる愛敵思想を基礎とした贖罪論を、前パウロと後パウロとのあいだに正しく位置づける作業を行う。その際に、(1)より高度な社会的記憶の理論適用を目指し、(2)詳細な文献研究的手法を通して、従来の殉教理解を批判的に評価する。これら2つの目的のため、以下の学会での報告が計画されている。 (1)Society of Biblical Literature International Meeting 2019 (Rome): Constructing Social Memories of Resistance: On the Martyrological Tradition in the Apostolic Fathers (7月). (2)日本新約学会例会:「使徒教父文書の〈殉教〉思想:影響史と訳語に関する一考察」(9月)。 これら2つの学術発表をもとにして論文を執筆し、2020年にはそれらが公刊されるように努める。 なお、2017年度のSBLでの発表内容が、2019年12月に公刊される予定である。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画どおりの予算執行だが、2019年度の国際学会での発表が決定したため、その渡航費に充てる分を2018年度から2019年度に持ち越したかたちになっている。2019年度の文献研究のための書籍購入、国内外の学会発表のための交通費等、現地調査のための旅費等に充てる。
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Research Products
(3 results)