2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02611
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
松原 陽子 九州産業大学, 国際文化学部, 准教授 (10610371)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス文学 / 文化的背景 / 生成過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
プルーストのテクストにおける「フランスの17世紀文学」のうちでも特に重要な劇作家であるラシーヌについて、査読付きの学術論文「ラ・ ベルマの『フェードル』―別離の苦悩とラシーヌの詩句」を刊行した。 その際、2016年に刊行された草稿カイエ67の転写版を用い、生成過程を辿ることで、プルーストの作品においてラシーヌの引用がいかなる役割を果たしているのかという問題を考察することができたと思われる。 本論では『失われた時を求めて』において、主人公「私」が初めて 『フェードル』を観に行く場面を取り上げ、生成過程を辿ることで、最終稿に至るまでの作家の模索について考察した。たとえば、観劇の前に「私」は『フェードル』の告白の場面における台詞を唱えるが、プルーストの草稿カイエ67の該当箇所で引用されていたのは別の場面のフェードルの台詞であり、その台詞もまた最終稿では他の箇所に移されていた。こうした一連の変更がなされた理由を探ったところ、ラシーヌ悲劇の引用と小説の主要なテーマとの関連が明らかになった。『失われた時を求めて』の中でも、特に『花咲く乙女たちのかげに』と『ゲルマントの方』におけるラシーヌの引用を分析の対象とした。女優ラ・ベルマの演技をめぐる複数の登場人物の談義についても生成過程を辿り、対照的な登場人物像を浮かび上がらせた。 学術論文を発表しただけでなく、本年度は草稿や文芸批評を含めた資料の解読により、プルーストや同時代の小説家、批評家が明示的に引用の対象とした17世紀フランス文学のテクストを網羅的に特定し、分析することに重点を置いた。プルーストと同時代の作家がどのようにラシーヌを引用したか辿っていくことで、19世紀から20世紀にかけての小説の変遷を追うことも目的とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
校務や予期していなかった業務があったため、予定通り研究を進めることが困難だった。
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Strategy for Future Research Activity |
プルーストの小説の生成過程に関する調査をさらに深めていく予定である。また、プルーストと同時代の批評を調査し、プルーストの小説の手法との関連を探る。同時にプルーストの手法と同時代の小説家のそれを比較し、プルーストの作品の独自性の一端を明らかにする。
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Causes of Carryover |
(理由) 校務や予期していなかった業務があったため。資料収集等研究のための出張ができなかったため。 (使用計画) プルーストの小説の生成過程研究やプルーストと同時代の批評等の文献調査を進めるため、資料収集を目的とした出張をする予定である。
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