2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02617
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菊池 正和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30411002)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ピランデッロ / ラインハルト / 演出 / 舞台空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
学術論文(単著)「ドイツにおけるピランデッロの受容 -ラインハルトによる『作者を探す六人の登場人物』の演出を中心に」、『ヨーロッパ超域研究1』、大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻、2019年3月、pp. 1-23
ピランデッロの代表作『作者を探す六人の登場人物』のドイツ公演を取り上げ、ドイツにおける初期のピランデッロ受容について考察した。特に1924年のラインハルトの演出による公演と、翌年のピランデッロ自身が演出を務めたローマ芸術座による公演を当時の劇評などから再構築し、それらの公演に対する批評家たちの言説を分析した。そこでは、ラインハルトの演出に対する最大級の賛辞があった一方で、ピランデッロに対しては、戯曲の高評価とは裏腹に演出の未熟さを指摘する批評が多く見られた。本稿では、その理由として、当時の劇壇における表現主義の隆盛、民族学的・文化人類学的な偏見に加えて、ピランデッロが『六人』を創作した意図に対する無理解を指摘した。ピランデッロが『六人』を創作した背景には、劇作家の立場からの演出家や俳優に対する不信感があり、舞台上で2つのエクリチュール、すなわち「登場人物」に仮託された戯曲テクストの精神と演出家や俳優による舞台上での創造行為を対峙させる意図があった。そうすることで、上演のエクリチュールでは、戯曲テクストをその精神のままでは再現できないことを立証し、演出家に対する劇作家の優位を主張しようとしたのである。 ピランデッロのそうした創作意図を理解していたのは、結果的にラインハルトだけであったといえる。彼は1人の演出家として、劇作家の戯曲に自由な改変を施し、劇中の「座長」にも強い輪郭と権限を与えることで、まさに「上演のエクリチュール」を駆使してピランデッロの戯曲と正面から対峙し成功を収めたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の予定では、最終年度は未来派演劇の劇作法と舞台美術の特質を整理し、イタリアにおいて1940年代から隆盛を極める演出家の演劇との接点を見出すことで、イタリア近現代演劇における演出の成立過程に、未来派演劇を決定的な要素として実証的に位置づけることを目的としていた。そのために申請者は二週間ほどイタリアへ渡り、ロヴェレートとミラノで最終的な現地調査と資料収集を行うとともに、現地での研究協力者と具体的な論文の発表やシンポジウムの開催等について相談をするつもりであった。しかし、2月半ば以降のイタリア全土における新型コロナウイルスの流行もあり、現地とのコンタクトが事実上ストップする形になった。調査予定であったロヴェレートの「芸術の家」もミラノ大学の図書館も閉鎖され、この4月初旬に至るまで現地の研究協力者と連絡が取れなかった。そこで、2月28日に「補助事業期間延長承認申請書」を提出した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度に実施予定であったロヴェレートやミラノにおける現地調査をできるだけ早期に行い、当初の予定通り、未来派演劇の劇作法と舞台美術の特質を整理し、1940年代以降の演出家の演劇との接点を見出すことで、イタリア近現代演劇における演出の成立過程に、未来派演劇を決定的な要素として実証的に位置づけることをまずは目標としたい。 ただし、令和2年度においても、現地での受け入れ態勢等も含めて調査が可能かどうか不確定な部分が多いことも考慮の上、当初の研究内容を遂行できないと判断した場合は、デペーロ等が創り出した舞台造形に関する調査を中断し、資料等がすでにそろっている文献学的な調査の割合を増やすことも視野に入れている。
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Causes of Carryover |
令和2年2月中旬以降、調査出張予定であったイタリア北部において新型コロナウイルスによる肺炎流行のため、現地(ミラノ・ロヴェレート)の研究実施場所が閉鎖されたために、今年度中の研究終了が不可能となったため、補助事業期間の延長を申し出た。 来年度に改めて上記の研究機関を訪れ、資料収集等を行い、研究成果をまとめたい。
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