2018 Fiscal Year Research-status Report
Comperative Analysis of Qualities of his Criticism and Essays with "The Man without Qualities"
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17K02629
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
長谷川 淳基 椙山女学園大学, 人間関係学部, 教授 (40198718)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ローベルト・ムージル / プラーガープレッセ / ジャーナリストとしてのムージル / ムージルの新テクスト / ケルからムージルへ宛てた手紙 / 『特性のない男』 |
Outline of Annual Research Achievements |
プラーガー・プレッセ紙を閲覧し、新たにムージルの新テクスト「レオナルド・ダ・ヴィンチの最初の彫刻」1本を発見した。 昨年度発見した同様の新資料に関して、ドイツ語論文にまとめた。この論文は国際ムージル協会の研究誌「ムージル・フォーラム」に掲載される予定になっている。なお、この論文執筆を終えた後のことになったが、今年3月にプラハ・ストラホフ修道院のアルヒーフで本論文での主張を裏付けるムージルの自筆原稿1本(「クジラの祖先 Der Ursprung der Wale」)を新たに確認することができた。その他、この調査の折にアルフレート・ケルからムージルに宛てた書簡として唯一現存が知られている手紙について、この手紙の所在を初めて確認したクルト・クロロップの調査・発見以降、この手紙の文章の一部が我々に誤って伝えられてきている事実を突き止めることができた。 上述の「ムージル・フォーラム」のためのドイツ語論文を書き上げた以外に、1920年代のローベルト・ムージルのジャーナリストとしての活動を分析したドイツ語論文2本を公表した。 1921年に本格的に開始したジャーナリストとしての活動に、当初ムージルは情熱を注いだが、その情熱は1923年頃に急速に減少した。ムージルの批評記事は、編集側の期待に適う内容ではなかった。その結果、ムージルへの執筆依頼が減少することになった。これが、ジャーナリストとしてのムージルの意欲減退の一因である。さほで活発でなくなったジャーナリズムの分野での仕事は、それでも生活費をねん出するための手段として重要であり続けた。この仕事への意欲の減退については別の事情が関係している。1930年に刊行される小説『特性のない男』執筆への集中がそれである。1920年代の作家ムージルは暮らしを立てるためのジャーナリスト活動と、本来の小説家としての活動の両方に、相反する意識で勤しんだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の目標ならびに方法は以下通りであった。目標は2点である。1)彼の演劇批評以外の批評(書評や展覧会レビューなど)並びにエッセイのすべてについて「特性」の有無を観察し、その結果をすでに分析を済ませている演劇批評に関する研究結果と合わせて総合的に検討し、2)「特性」の観点で、彼の批評・エッセイ全般と小説『特性のない男』(1930)との関連性ないしは変化・展開の過程を明らかにする。また、そのための方法は3点である。1)先ず資料収集(ムージルの新テクストの発掘を含む)を必要とする。資料の内訳は、ムージルの批評・エッセイの理解に必要な資料。ムージルが批評対象にした書籍、また展覧会などに関するカタログ等。他の批評家による記事。これらに関する2次文献、研究文献(学位論文を含む)。(日本にない資料はウィーン、プラハ、ベルリン等の図書館で資料閲覧・収集を行う。資料については以上である。2)研究全般について国際ローベルト・ムージル協会と、特に専門的知識の提供とドイツ語論文の校閲についてカール・コリーノに支援を受ける。3)各年度ごとに研究成果を発表し、研究最終年度末までに最終結果を公表する。 以上の「目標」と「方法」に照らして、今年3月プラハにて新テクストの発見とその分析も併せ予想以上の成果を上げることができた。またウィーンでもムージルの遺稿の中に ma の署名のある原稿を確認できた。これらの発見と、現在までの分析から1920年代のジャーナリストとしてのムージルの仕事ぶりについては、その量と質が徐々に減退しながら1930年の『特性のない男』発表に向かうことを突き止めることができた。作家としてのムージルの仕事すなわち小説作品等とジャーナリストとしての彼の新聞記事等は、同列のものとして評することはできないことを明らかにしたことで、ムージル研究における本研究の意義を再認識することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の意義と旧来の研究との違いを意識しつつ、残り2年間の研究を進める。旧来のムージル研究は詩人・小説家としてのムージルの仕事とジャーナリストとしてのムージルの仕事との境界をあいまいにして双方の分析・研究が進められてきた。二つの分野での仕事を研究対象として取り上げる際の取り扱い方、アプローチの方法に関する基本的認識を明確にすることも、本研究の重要な側面であることを改めて理解できた。 具体的に述べると、ムージルの小説『特性のない男』にエッセイイズムという語が出て来る。このエッセイイズムは『特性のない男』を貫く中心思想と見なされもする。これは『特性のない男』が本来的にムージルのジャーナリストとしての仕事に重なるものであることを示している。他方、その「ムージルのジャーナリストとしての仕事」であるが、そこでは実名記事と匿名記事とが混在している。ムージルはこの使い分けを意識的にやったことが、本研究の過程で理解できた。実名記事は自分本来の文章であるが、匿名の記事は必ずしもそうしたものではない、との考えを彼ははっきりと表明している。ただし、その意識は若い時代から晩年に至るまで一貫したものであったとは言い切れない。例えばフランツ・ブライの雑誌「デア・ローゼ・フォーゲル」は全部の記事が匿名であったから、この雑誌に寄稿したムージルの記事が匿名であったことは、本人のこうした意思を反映した結果ではなく、それ故に1920年代のプラーガー・プレッセ紙での場合とは事情を異にしている。 本研究は1920年代に限ったものとして『特性のない男』とムージルの批評・エッセイとの関係を分析し、その関連を解明することを目指している。この目標地点を見失うことなく、ムージル研究史上に意義を有する成果を出すべく今後の研究を進める。 その他、この3月に発見した新資料を考察を加えて今年度中にドイツ語論文として公表する。
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Causes of Carryover |
当該年度(2018年度)の旅費の執行は2019年2月20日より同年3月18日であった。宿泊費等は私が立て替え払いをしており、帰国後に領収書等を椙山女学園大学に提出した。上記「次年度使用額(B-A)515,953円」のうちには、この立て替え払いの費用が含まれている。この立て替え払い分が差し引かれたのちの残高と2019年度分の交付金を合わせて、2019年度に予定している研究費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)