2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02631
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
近藤 昌夫 関西大学, 外国語学部, 教授 (80195908)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コロムナ / サンクト・ペテルブルク / ドストエフスキー / 広場 / 近代ロシア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題に従い、2017年度はサンクト・ペテルブルクのコロムナ地区において調査・資料収集を行った。現在、コロムナ地区と呼ばれる行政区画は、クリューコフ運河を東の境界線とするネヴァ河口側とされ、文学作品で言及されるコロムナ地区とは地理的なずれがある。今回、資料(Н. Беневоленская. Образ Петербурга в русской литературе XIX века)および現地での聞き取り調査に基づき、近代ロシア文学の舞台となったコロムナが、ドストエフスキーの『罪と罰』の舞台となったセナーヤ広場界隈まで含まれることが確かめられた。 もうひとつの成果は、近年発見された、A.プーシキンのペテルブルクの最初の住居の訪問によって、大コロムナ地区を舞台とする『コロムナの家』のテクストと実際の地理的空間を対照できたことである。また、ゴーゴリ『外套』の重要な舞台とされる、同じ大コロムナ地区のポクロフスカヤ広場を訪れ、広場の規模をテクストと対照し、教会と市場の立地が把握できたことも今後の研究にとって有益であった。 コロムナを舞台にしたドストエフスキーの40年代の作品については、Л. ЛурьеのПетербург Достоевскогоを参照しながら、『貧しき人びと』及び『白夜』の舞台となったグリボエードフ運河やフォンタンカ川沿い、クリューコフ運河沿いの地理とテクストの関係が把握できた。これら40年代の作品の舞台は、たとえば60年代の代表作『罪と罰』の舞台とも重なるが、共通する地理的・空間的特徴が今回の現地調査によって明らかになった。それは、自然と人工都市の闘争からうまれたペテルブルク神話に照応させるかのように、ドストエフスキーが、人工的な直線の運河と、自然の河川を利用して造成した屈曲する運河とが強引に接続されるコロムナ地区を、作品の舞台にしていることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文学的コロムナの地理的・空間的把握が2017年度の主な研究目的であったので、Г.Беляева (“Прогулки по старой коломне”)やГ.Зуев (“Там, где Крюков канал…”)あるいは「ロシア建築美術週報」等の資料をもとに、関連する複数のテクストと同地を対照できた。 コロムナについては、「ロシア建築美術週報」─人工都市の総目録」(関西大学図書館フォーラム第22号、2017)で言及し、40年代ドストエフスキーについては、Русская классика: pro et contra. Между Востоком и Западом, антология.2018.所収の拙論Восприятие классической русской литературы в Японии нового времени.のドストエフスキーの章において、テクスト分析の前段階として40年代の作品をドストエフスキー文学全体の中で位置づけた。また、間接的な成果として、広場を舞台にした降誕祭の反転の原理をチェーホフの作品解釈に適用し、拙論「『赤い鳥』のチェーホフ受容について」にまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2011~2013年の基盤研究(C)(課題番号23520409)の研究成果『ペテルブルク・ロシア』(未知谷、2014)で『罪と罰』のラスコーリニコフについて、宗教的に改心しようとする叛徒の側面を、聖堂イメージと関連させて指摘したが、同類の叛徒はプーシキンやゴーゴリのコロムナ作品にも姿を変えて登場する。このことと今回の調査結果から、コロムナを舞台にした、『貧しき人々』、『分身』、『白夜』など40年代ドストエフスキー文学の夢想家たちが叛徒ラスコーリニコフのプロトタイプではないかとの着想がコロムナを介して裏付けられたので、今後は叛徒の系譜と40年代ドストエフスキーとの関連から考察を深め、テクスト分析を行う。
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Causes of Carryover |
購入予定の図書費には不足していたため、次年度使用額が生じた。次年度分に充てることで、計画していた図書資料の整備を進めてゆく。
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Research Products
(5 results)