2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K02631
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
近藤 昌夫 関西大学, 外国語学部, 教授 (80195908)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドストエフスキー / ペテルブルク / コロムナ / 夢想家 / フェリエトン |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の現地調査で把握できたコロムナ地区の地理空間が、40年代のドストエフスキーの小説に与えた「対位法的な効果」(前田愛『都市空間のなかの文学』)を検討するために、「研究実施計画」に沿って、2017年度後半から処女作『貧しき人々』(1846)のテクスト解釈に着手した。都市の作家ドストエフススキーの『貧しき人々』における地理空間と物語の関係を明らかにするにあたり、田山花袋の『蒲団』(1907)と比較した。『蒲団』を比較対照のためのテクストに選択した理由は、①花袋が回想録『東京の三十年』で新都東京の成長と変貌を記録した都市の作家であることと、②『蒲団』が花袋と同郷の瀬沼夏葉による『貧しき人々』の抄訳『貧しき少女』(1904)の出版後に執筆された小説であることの2点にある。 この課題の研究成果は、キリスト教人文アカデミー(サンクト・ペテルブルク)での口頭発表を経て、論文「田山花袋『蒲団』とドストエフスキー『貧しき人々』」として公表した。本研究の目的に照らした小論の成果内容は、主人公ジェーヴシキンが行き来する、下町コロムナと富裕層の暮らす市街地が物語に内在化されていることが論証されたことで、①コロムナ地区ポクロフ広場周辺の文学的重要性が明確になったこと、そして②『貧しき人々』にとってのフェリエトン『ペテルブルク年代記』(1847)の意義が明らかになったことである。また、以上の成果に加え、『貧しき少女』の未訳部分が『蒲団』に影響を与えていることが判明し、付随的成果として明治期におけるドストエフスキーの受容に新たな見解を示したことがあげられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で示したように、40年代のドストエフスキー文学におけるコロムナ地区の文学的重要性の検討が、ほぼ計画通り進行し、実績を残している。一連の成果から、フェリエトン『ペテルブルク年代記』(1847)が40年代の小説にとって看過できない、ペテルブルクのメタ・テクストであることが判明し、現在『貧しき人々』と『ペテルブルク年代記』の有機的な関連について検討を進めている。両者の関連から、これまでに主人公ジェーヴシキンが、『ペテルブルク年代記』で観察・分析されているペテルブルク住人の複数のタイプから造形・擬人化された、いわばペテルブルクの化身であることや、ジェーヴシキンの住む「貧民窟」がコロムナに想定されているのは、新人作家ドストエフスキーに、プーシキンに始まりゴーゴリの「ペテルブルク小説」で成立した「コロムナ文学の系譜」とは異なる、新たな文学を提唱する意図があったことなどが具体的にわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
『貧しき人々』と『ペテルブルク年代記』の関連を論文にまとめ公表する。その後、『ペテルブルク年代記』から誕生したコロムナの物語『家主の妻』(1847)、『かよわい心』(1848)、『白夜』(1848)などと『貧しき人々』との相違を「自立」あるいは「分裂」という観点から検討する。余力があれば、60年代の代表作『罪と罰』が同じコロムナのポクロフ広場ではなく、セナーヤ広場を物語で内在化した理由の解明に着手したい。
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Research Products
(4 results)