2017 Fiscal Year Research-status Report
中国通俗歴史小説と戯曲の影響関係に関する研究―『春秋列国志伝』を中心に―
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17K02634
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
土屋 育子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (30437800)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国文学 / 戯曲 / 趙氏孤児記 |
Outline of Annual Research Achievements |
明代後期(16~17世紀初め)に成立した『春秋列国志伝』全八巻(三台館刊本)は、中国の春秋戦国時代を舞台に描かれた通俗歴史小説である。巻四に収められる「趙氏孤児」の物語(異本である陳継儒本(全十二巻)は、当該挿話は巻六に収められる)は、『春秋左氏伝』や『史記』などに見える、趙氏一族の受難と唯一の生き残りの孤児による復讐を描いている。この物語は戯曲作品にも仕立てられ、『春秋列国志伝』に先だち、元代の「趙氏孤児」雑劇と、明代の『趙氏孤児記』(別名『八義記』)が現れた。初年度は、『趙氏孤児記』に着目して研究を行った。 『趙氏孤児記』の明刊本には4種―風月錦嚢本・富春堂本・世徳堂本・汲古閣本―が知られている。先行研究ではこれら4種が共通の祖本から分離したとし、筆者も概ね首肯するが、風月錦嚢本と世徳堂本とが同系統であり、汲古閣本はそれらとは別系統であるとすることについては、調査の結果、筆者は異なる見解を持つに至った。 富春堂本と世徳堂本とでは版式が異なり、世徳堂本が各折に題目を有する点が目を引く相違であることを除き、本文はほぼ同文といってよいほど一致する。次に節略本である風月本と、富春堂本・世徳堂本・汲古閣本を比較すると、風月本の一部で、汲古閣本とのみ一致し、富春堂本・世徳堂本とは異なる状況が見いだされた。一致する箇所があるとはいえ、風月本が節略本である以上、富春堂本・世徳堂本・汲古閣本といった完本の編集の際に、風月本が直接用いられたとは考えにくい。したがってこれは、風月本の祖本にもとづいて多少手を入れたものが富春堂本・世徳堂本であり、汲古閣本も風月本の祖本に基づくが、富春堂本・世徳堂本に全面的に依拠せず、別に改編を施したものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記に述べた内容を中心とした『趙氏孤児記』に関する研究を9月開催の学会で発表し、同時期に主要版本について所蔵機関での調査も行うことができた。このように年度途中までは、順調に研究を進めていたが、現時点では、論文として公表するまでに至っていないため、達成度を3とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2年目は、『春秋列国志伝』に見える伍子胥の物語(三台館刊本:巻五~巻六、陳継儒本:巻七~巻八)を中心に調査を行う。伍子胥については、早くに『史記』「伍子胥列伝」の記述がある。その後、現代になって発見された敦煌変文に「伍子胥変文」という虚構を交えた作品があるが、書物の形で継承されてきたというよりは、地下水脈のように民間で伝えられてきた物語と言える。それが再び表に現れてきたのが、元代以降の演劇においてである。伍子胥を題材とする戯曲として、雑劇「臨潼闘宝」「伍員吹簫」「疎者下船」及び南戯『浣紗記』等の存在が知られる。これらは、歴史書に基づいてはいるものの、物語としては全く独自の展開を見せている。戯曲と小説との関係では、すでに先行研究が、歴史書に見えない「臨潼闘宝」という挿話が『春秋列国志伝』に取り入れられていることを指摘するが、その他の戯曲を含め調査を進めることとする。 さらに、国内外に所蔵される『春秋列国志伝』原本を調査する。調査結果を論文にまとめ、学会誌等に発表する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた書籍を、年度内に購入することができなかったため。 次年度に発注するとともに、調査旅費として使用することを予定している。
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Research Products
(2 results)