2019 Fiscal Year Research-status Report
中国浙江講唱文藝研究 ―勧善・免災の機能から考える―
Project/Area Number |
17K02652
|
Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
松家 裕子 追手門学院大学, 基盤教育機構, 教授 (20215396)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小南 一郎 公益財団法人泉屋博古館, 学芸課(本館), 名誉館長 (50027554)
磯部 祐子 富山大学, 大学本部, 理事・副学長 (00161696)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 宝巻 / 宣巻 / 勧善 / 免災 / 目連 / 温州鼓詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績を、文献調査、実地調査(フィールドワーク)、成果の公表の3点に分けて概括する(以下、分担者・協力者の敬称略)。 文献調査は、松家が本研究の主要な対象である宝巻の作品を、小南が目連救母の物語りにかかわる文学を、磯部が浙江の温州で行なわれている宗教儀礼であり藝能であるところの「温州鼓詞」のテキストを、そして研究協力者の要木(藤田)佳美が明代江南の救荒(救荒は勧善とかかわる)の史料の調査を、それぞれに進めた。実地調査は、松家と要木(藤田)が、紹興の安昌鎮において、宝巻をテキストとする宗教儀礼であり藝能であるところの「紹興宣卷」について、実演の観察・記録と、藝能者はじめ関係者への聞き取りを行なった。期末に行なう予定であった調査、すなわちすでに手配を終えていた磯部による温州における実地調査や、3月に行なう予定であった紹興における調査は、すべて断念せざるを得なくなった。本研究は2019年度に終了する予定であったが、上述のように2020年1-3月に中国で調査が行えなくなったため、期間を1年延長することとした。しかし、次の科研費の申請をしていたこともあり、研究のまとめである冊子体の報告書は、当初の予定どおり2020年3月に刊行した。3か年に文章化した成果はすべてここに収めた。そのうち、2019年度の新たな成果として、小南・磯部・要木(藤田)が上記文献調査の結果をそれぞれ文章化し、松家が紹興宣巻実演中の口頭の表現とテキスト(宝巻)との比較から、紹興宣卷の旧来の姿を探った。また、要木(藤田)は、単独の実地調査の成果として、湖州における民間信仰と藝能の実態の報告を行なった。 本研究の目的である、勧善と免災の機能から浙江の講唱文藝を考えるという点において、集約的な結論はまだ見えないが、その多様なありかたの具体的な解明は進められたということができると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実地調査は、一年中、随時現地に赴き、藝能の実演をできるだけ多く観察・記録し、テキストをできるだけ多く撮影し、できるだけ多くの藝能者や関係者に聞き取りを行なうのが理想的である。毎回の実演、毎回の聞き取りで目に見える収穫が得られるたびに、それを痛感する。 2019年度は、年度内に1回しか実地調査を行なうことができなかったから、そういう点ではとうてい満足できるものではない。しかし、成果を報告書をまとめてみると、そのような中でも、一定の成果が得られたことがわかる。これは、分担者・協力者の尽力のたまものである。さらに言えば、次の2つの理由によるであろう。本研究グループが浙江において実地調査をはじめて12年がたち、2018年度以前の蓄積を生かすことができたこと。あわせて、本研究グループがもともと限られた時期にしか実地調査に行くことができず、その中で、一回一回の調査で得られた情報を仔細に分析する方法で研究を進めてきたこと、である。じっさい、一度の実演、数時間の聞き取り調査でも、得られる情報は膨大である。 かくして、概要の末尾に記したように、本研究の目的である、勧善と免災の機能から浙江の講唱文藝を考えるという点において、一定の貢献をなし得たものと判断して、進捗状況の「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度より、本研究と同じメンバーで、「中国近世宗教文藝研究」の課題のもと、科学研究費を受けて研究が進められることになった。この新しい研究は、宝巻研究が、地域ごと、時代ごと、作品ごとに分断されがちであることから、宝巻というジャンル全体を見わたす新しい地平を拓くことをめざして行なう。 一方、本研究は「浙江」という地域名を課題に含み、紹興と温州の二地点を主たる対象としてきた。研究期間を延長したのは、これらの地点に、本研究の趣旨のもと、再度調査に赴きたいという強い願いがあったからである。実地調査は行なえば新たな課題が見つかるし、それを文章化すればなお、調査のやりなおしや新しい調査の必要を痛感することになる。万一、年度内に中国における実地調査ができないことになれば、これまでに行ったの実地調査の収穫と、文献資料によって研究を進めることになるが、いずれの場合にも、新しい科研費研究とバランスをとりながら、これまでにまとめた成果の不足を補い、また新たに発展、深化させることをめざす。
|
Causes of Carryover |
2020年1-3月、中国浙江における実地調査を予定していたが、断念せざるを得なくなったため。
|