2021 Fiscal Year Research-status Report
前近代文学者たちの近代―明治・大正・昭和期における伝記と肖像の継承と変容
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17K02656
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 久美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10647994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文学者 / 肖像 / 美人観 / 小野小町 / 三島由紀夫 / 記紀神話 / 『シン・ゴジラ』 |
Outline of Annual Research Achievements |
上代から近世までの代表的文学者の人物伝と肖像を横断的に分析し、近代以後、古典文学とその作者の人物像がいかに伝わり広まったかを追う研究課題のうち、令和3年度は、令和2年度に刊行した「世界三大美人」論の続編にあたる論文を発表した。当該論文では、小野小町に対する現代におけるイメージと戦後の美人観との関連性を考察した。昭和期における容貌をめぐる価値観の変容を論じる中で、女性のみでなく男性についての議論も必要であると感じ、その後、三島由紀夫の肖像写真についての口頭発表を行うに至った。本研究課題は前近代文学者を研究対象とするものであるが、以後の研究を近代以後の作家の伝記および肖像に広げる一つのきっかけを得ることとなった。 「世界三大美人」言説の研究は現在に至るまで反響が大きく、令和3年度には興味を持った高校生からインタビューを受ける機会などもあった。肖像の研究から派生して、容貌に基づく差別を考えるという問題関心から執筆した既発表の『病草紙』論(「暴露の愉悦と誤認の恐怖――「病草紙」における病者との距離」牛村圭編『文明と身体』臨川書店、平成30年)をふまえ、令和2年に続き令和3年にも、高校生に向けて『病草紙』論を発信する機会もあった(高校生向け合同進学ガイダンス「夢ナビライブ」オンライン講義「絵巻「病草紙」から考える「美」と「醜」」)。 上記の研究ほか、映画『シン・ゴジラ』におけるヤマタノオロチやヒルコ、カグツチをめぐる記紀神話の物語の応用についての分析も行った。平成29年に仁川大学校で行われたシンポジウムでの発表内容がようやく活字化されたものである。古典文学が現代においてどのように受容されているかをめぐる研究として、文学者の伝記および肖像の現代における受容研究にも繋がるテーマとなった。韓国の研究者との協働により、日本古典をめぐる問題を国際的な視野から考える機会も得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、コロナ禍を受け令和2年度に続き出張を控えたことと、私事ながら身内に不幸があったことから、調査計画に遅延が生じた。ただし、可能な限り研究を進め、「研究実績の概要」に記した通り、論文を2本刊行したほか、研究発表もオンライン開催のものを1件行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の遅延により、補助事業期間の延長を願い出た。令和4年度を、改めて本研究課題の総括の年とする予定である。これまで刊行してきた業績は、平安文学者論、中でも女流文学者論に主に集中していたが、令和3年度に三島由紀夫を口頭発表で取り上げたことを足掛かりに、調査は研究期間中継続して行ってきた男性の文学者についての議論も活字化し、総論に繋げてゆきたいと考えている。また、同じく三島についての発表を契機に、今後の研究対象を近代以後の文学者の肖像および伝記にも広げてゆきたいと検討している。
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Causes of Carryover |
令和2年から続くコロナ禍と、私的な事情ながら身内の不幸から、令和3年度も出張の機会がほぼなかったことにより、旅費の支出が当初の計画より減少したことが大きな要因である。繰り越した予算は、補助延長期間となる令和4年度に、出張費のほか書籍および消耗物品購入費等として活用する予定である。
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Remarks |
ディスカッサント 南相旭氏(仁川大学校)
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