2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K02659
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北田 信 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (60508513)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ネパール / ネワール / 演劇舞踊 / マッラ王朝 / 地方文化 / チベット・ビルマ語系 / インド・アーリア語 / ビルハナ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年に引き続きジャガトプラカーシャ・マッラ王のネワール語歌集の研究を行った。これと並行して、ネパール中世マッラ王朝期に行われた宮廷演劇文化の重要な資料であるベンガル語戯曲『ヴィディヤー姫とスンダラ王子』写本の研究を行った。この写本には著者として詩人シュリーダラの名が記されている。研究の結果、これが、ベンガルのムスリム王朝フセイン・シャーヒー朝のフィーローズ・シャー王(1532年)に仕えた宮廷詩人シュリーダラ(1520-32)と同一人物であることを突き止められた。『ヴィディヤー・スンダラ』物語を基にしたベンガル語作品としては最古のものである。面白いことにシュリーダラの同作品の戯曲写本が、1950年代にバングラデシュ・チッタゴンでも見つかっている。また、シュリーダラのこの戯曲が、同時代のミャンマー・アラカン地方のムスリム王国に仕えた詩人シャービリド・カーン(1517-85)の手本となったことも知られていた。シカゴ大の学者Thibaut d'Hubertの説によれば、当時のインド亜大陸東部には、アラカンからカトマンドゥにわたり、ベンガル語・ミティラー語をリンガ・フランカとして広大な文化・文学・芸術交流圏が存在したという。今回の発見は、この説を裏付けるものであり、ネパールの文芸・演劇文化が単なる周縁部の亜流ではなく、非常に大きな文学・文化潮流に属することが明らかになってきた。 なお、チッタゴンで発見されたシュリーダラの写本は欠落が多く不完全なのに対し、ネパールには2つの写本がほぼ完全な状態で保存されており、より良いテキスト復元が可能である。 この他に、約300歌を収めた歌詞集の中に、ベンガル語最初期の詩人ボル・チョンディダシュの歌詞が多く含まれていることを確認した。ネパールは、ベンガル語を始めとする新期インド・アーリア東部諸語の文学史にとり無視できない重要性を持つことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍によって現地調査を実施することができなかったため、国内で写本の分析を行った。 「研究実績の概要」で述べた通り、シュリーダラ作の戯曲『ヴィディヤー姫とスンダラ王子』を記載した、カトマンドゥに保存される60葉もの大きな写本を研究して校訂テキスト・分析を発表し、その際、ネパールからベンガルにまたがる広い地域の文学史研究にとり、かなり大きな意義を持つ発見をすることができた。 また、カトマンドゥに保存される歌詞集写本の中に、ベンガル語最初の詩人ボル・チョンデイダシュの歌詞群が多数含まれることを確認できた。 つまり、ベンガル語による文学史上の最初期に位置づけられる二つの作者の作品をカトマンドゥという意外な場所で確認できたことになり、これはベンガル文学史を書き換える潜在力をもつ新事実を発見できたことを意味する。こうしたことから、進捗状況は実は当初危惧していたほど悪くはなく、「まずまずの成果を達成することができた」といったところが率直な感想ではあるが、現地調査をしなかったので、区分(3)を選んでおく。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルスが世界的に蔓延し収束が見えないという現状を考えると、残念ながら今年度も、ネパールでの現地調査・写本収集を実施するのは難しそうである。しかし、今年から南アジア音楽学・古代インド音楽文献研究の世界的な権威リチャード・ウィデス教授(英SOAS)の主導するネパール芸能に関する研究プロジェクトのメンバーとして加えて頂くことができ、現在すでに活発な学術的な交流を行っている。また毎週、シカゴ大の研究者の主催する中期ベンガル文学のオンライン研究会にも参加している。さらにネパール伝統芸能に関しては、東京藝大の日本・中国仏教声明の研究者の協力のもとに、比較研究も予定している。これと併せて、ネパールでこれまでに収集した写本に基づく原典研究を行えば、当初の研究計画とは若干異なるが、それに代わる意義深い研究成果を上げられると確信している。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの世界的な蔓延により、海外での調査が不可能になったため、使いきれなかった。今年度は、これらを日本国内における研究打ち合わせや学会参加のための旅費および謝金等に充てる。また、海外調査が可能な状況になれば、当初の計画通り実施する。
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Remarks |
阪大ディレクトリOsaka University Knowledge Archive (OUKA)で発表した研究成果報告書である。
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Research Products
(9 results)