2019 Fiscal Year Annual Research Report
Towards a general theory of subjectivity
Project/Area Number |
17K02671
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
阿部 宏 東北大学, 文学研究科, 教授 (10212549)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 望ましさ / 文法化 / 主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
言語における主観性の働きについては、アメリカ,ヨーロッパ,日本の言語研究史の中でそれぞれ独立して発見が行われ、その後の研究も相互交流が薄いまま同時並行的に行われてきた。しかし本研究は、これらの研究系譜は同一の認識基盤に基づいているという想定の下に、3つの研究系譜を統合的に整理し、新たな主観性理論の構築を試みた。 具体的には、フランス語、英語、日本語の実例の考察に基づき、主観性と間主観性との関係、文法化と(間)主観化との関係、語彙的表現と主観性を担う表現との多義性の問題、などを考察し、これまで研究が集中してきた「真実性」主観性以外の可能性、特にフランス語圏の研究者のブリュノやバイイが提示していた「望ましさ」主観性、「実現要請」主観性などの存在を明確化しえたと考える。 主観性の働きは特定の文副詞、助動詞、接続詞、ある種の機能語などに限られるものではなく、一般語彙や熟語の多義性の一部として潜在している。同語反復文、矛盾文以外にも主観性の表明に特化した構文がありうる。小説の地の文などを典型例とする虚構の過去の語りにおいては、主観性を担う主体が二重化(メイン語りを担当する主体と地の文中のダイクシスなどの基準点となる主体)する。またこの場合、戯作の伝統を継承する日本の小説と歴史書の記述をモデルにした欧米語の小説とでは、主体の二重化の様相は異なる。この点から、欧米語に特有な自由間接話法、日本語に特徴的な自由直接話法や「た」形と交替して現れる「る」形に関わる現象などに説得的な説明原理を与えることが可能となった。さらには、フランス語における形容詞の名詞に対する前置と後置、英語における複数形容詞の配列順序、日本語における直示述語などの問題の関係性、日本語に特徴的で欧米語に稀な擬音語・擬態語の現象も、この新たな主観性理論の点から考察しうる展望が開けた。
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