2018 Fiscal Year Research-status Report
付属語音調変異の同時間的な動態記述と変異生成機序の解明
Project/Area Number |
17K02673
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
那須 昭夫 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00294174)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アクセント / 付属語 / 音調 / 変異 / 中和 / プロソディ / 音韻論 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、式保存型付属語に生じつつある音調変異(起伏化による中和)の実態を記述し、変異の要因と機序を解明することである。平成30年度は①韻律長の影響に関する定量的・理論的分析、②形容詞語幹に「そうだ」が付属した節での音調中和実態の記述、③接尾辞「方(かた)」の式保存特性ならびに音調中和実態の記述を中心に研究を行い、以下の知見を得た。 ①音調変異は概して前接動詞の拍数が増えるほど起こりやすく、特に前接動詞が2拍以下である形式と3拍以上である形式との間には変異の生起頻度に統計的有意差が認められる。今年度は「たい」節・「そうだ」節に関して得られたデータを精査し、2拍という韻律長が変異の成否を左右する閾値として働いていることを、定量データに基づいて実証した。加えて、この閾値が持つ言語的意味について、韻律階層理論に基づく理論的考察を行った。その成果は論文として投稿し、現在刊行準備中である。 ②本研究は当初、式保存型付属語が動詞に後接した構造での音調変異の記述をねらいとしていたが、形容詞語幹に「そうだ」が付属した節(Aソウダ節)においても変異が生じている事実が捕捉された。このため、Aソウダ節の音調実態に関する録音調査を新たに実施した。分析の結果、Aソウダ節での音調変異は動詞含みのソウダ節における変異よりもはるかに高頻度で発生し進行中であるとの実態がとらえられた。この成果は研究発表において公表した。 ③Aソウダ節に加え、接尾辞「方(かた)」が動詞連用形に付属した形式(例「遊び方」など)も式保存特性を示すことをとらえ、かつ、この形式においても音調変異が進行中であるとの初期観察を得た。これを踏まえ、「動詞連用形+方」における音調実態を捕捉するための録音調査も新たに実施した。その結果については現在整理中であり、近いうちに分析を開始する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を推進するうえで不可欠な補充調査を実施し、加えて、新たに発掘された課題に関する2件の調査も年度中に実施できた。現在、各付属語について音調中和実態の記述と分析を進めており、さらに必要な追加調査の内容についても検討を進めている。調査計画の基本的な見通しはこれまでの考察を通じてすでに得られている。 平成30年度は式保存型付属語のうち特に「たい」と「そうだ」に焦点をあて、それらに前接する動詞の韻律長が音調変異の促進にもたらす影響について考察を進め、定量分析・理論分析の両側面から知見の導出を行った。定量分析に関しては、前年度の課題として残されていた統計手法の検討(検定の多重性の回避)を終えた上で、変異強度の量的予測に寄与する統計的知見を導き出すことができた。 加えて、「形容詞+そうだ」節および「動詞連用形+方」句においてもその音調に式保存特性があることを捉えたうえで、これらの形式においても音調中和に向かう変異が進行中であることを、録音調査を通じて捉えることができた。これらは当初予定していた観察の幅を広げる成果であり、進行の途上にある音調中和事象の性質を多角的に記述するうえで重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題は大きく分けて3つある。①変異機序の分析・②追加調査・③成果公開に向けた準備である。 ①については、音調変異の進行に寄与する要因として周辺文節の音調の影響に着目し、アクセント句形成を制御する音韻制約の働きを理論的見地から明らかにする。式保存型付属語を含む形式での音調変異の生起頻度には、それに先行する文節と後続する文節の音調指定(無核か有核か)が強く干渉するとの分析結果がすでに得られている。それを踏まえ、音調変異の動因ならびに進行機序について、より実像に近い事実に立脚した説明原理の導出を目指す。 ②については、話者の出身地域ないし母方言の影響を考慮した追加調査を計画している。これは、主に「そうだ」を含む節の音調について、話者の出身地域のアクセントの特性が変異の生起頻度に影響を与えていると目される調査結果が得られているからである。変異の進行強度はとくに無アクセント地域出身話者において目立って高く、これは当初の予測にはなかった新たな知見である。この点について実態記述の精細化を図る。 ③については、分析・考察の帰結を逐次論文等で公表することに加え、これまでの研究成果を踏まえた上で、研究成果の包括的公表を視野に入れた準備を行う。
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Causes of Carryover |
今年度実施した録音調査では補助者を雇用しなかったため、人件費(謝金)に残額が生じた。また、旅費についても、調査地および学会・研究会等の開催地が比較的近隣であったために残額が生じた。「その他」として計上していた調査票等の作成に係る経費に関しても、当初想定よりも節減できたため残額が生じた。 平成31年度は、①補充調査に係る経費、②録音資料の音響分析に係る経費、③理論的考察に係る経費、④研究成果の発表・論文掲載料・研究情報収集等の活動にかかる旅費などの支出が主な使途として見込まれる。①に関しては、作業補助者の雇用にかかる経費等が見込まれるほか、録音機器を追加購入する必要が生じているため、それに関係する支出が見込まれる。②に関しては、データの入力等に係る謝金の支出が見込まれる。③に関しては、考察に必要な音韻理論関係研究書の購入に係る経費が見込まれる。④に関しては、国際誌等への投稿・成果公開に向け、英文校閲に係る支出が見込まれる。
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