2019 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮語諸方言における複合語・派生語のアクセント研究
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17K02675
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
伊藤 智ゆき 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (20361735)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 韓国朝鮮語 / アクセント / 歴史言語学 / 類推変化 / 複合語 / 派生語 / 中期朝鮮語 / 最適性理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、現代朝鮮語諸方言のうち、延辺朝鮮語・慶尚道方言を対象に、複合語・派生語のアクセントに関する比較対照研究を更に進めた。両方言は、単純語名詞アクセント体系がかなり異なり、また複合語アクセント規則とその適用度においても、相当な違いが見られる。 延辺朝鮮語・慶尚道方言の複合語アクセントについて詳細に検討を行った結果、両方言に見られる複合語アクセントパターンの違いの1つは、延辺朝鮮語における、基底アクセントクラスの音韻論的解釈の曖昧性に起因するのではないかという新しい視点を見出した。この仮説について、最適性理論を用いた基礎的分析を行ったところ、比較的少数の制約により、延辺朝鮮語における複合語のアクセント分布が相当程度説明できることが分かった。また、このアクセントクラスの曖昧性は、かつて中期朝鮮語において存在していた、二種類の高調アクセントクラスに由来すると見られる。中期朝鮮語において、これら二種類の高調アクセントクラスの違いは、主として処格形・複合語のアクセントに表れていたが、それらの違いが次第に不鮮明になる中で、複合語アクセント規則を再解釈した結果が、現在の延辺朝鮮語複合語アクセントパターンに反映されていると考えられる。 一方、延辺朝鮮語における複合語・派生語のアクセントは、それらを構成する各語の中期朝鮮語アクセント、音節構造、語構造と特に相関性が高いことを、統計学的に明らかにした。 なお、本研究内容の一部について、2020年3月、国内学会において発表予定であったが、新型肺炎の流行により学会がキャンセルとなったため、公開には至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
延辺朝鮮語・慶尚道方言の複合語アクセントパターンに見られる差異について、延辺朝鮮語における基底アクセントクラスの音韻論的解釈の曖昧性という、新しい解釈を見出している。またそれにより、従来その分布についての解釈が困難であった延辺朝鮮語複合名詞のアクセントに関し、最適性理論に基づき、かなり体系的・組織的な説明が可能であることを明らかにできている。
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Strategy for Future Research Activity |
延辺朝鮮語及び慶尚道方言の複合語アクセントパターンについて、最適性理論に基づく分析を更に詳細に進める予定である。一方、単純語・複合語間のアクセント変化率の相関性について明らかにし、アクセント変化の方向性について検討を進める。 また現時点では、延辺朝鮮語・慶尚道方言の複合語アクセントパターンに見られる差異について、中期朝鮮語以降の異なる歴史的発展という観点からも、合理的な説明が可能ではないかと考えている。この点についても、収集済データや先行研究による報告等を利用しつつ、より精緻に明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は主として、既に所有している研究機器・ソフトウェア・研究データを用いて、分析を進めたこと、また出席予定であった学会がキャンセルになったことなどにより、予定していたよりも助成金を使用する機会が少なかった。今後は、本研究を完了させるため、追加で必要となる研究資料や、成果公開費等に用いる予定である。
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Research Products
(3 results)