2018 Fiscal Year Research-status Report
音象徴的意味に関する恣意性と有契性:通言語実験にもとづく理論化の基礎研究
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17K02679
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
篠原 和子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00313304)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇野 良子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40396833)
秋田 喜美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20624208)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音象徴 / 言語間差異 / 恣意性 / 有契性 / 語頭阻害音 / 両唇音 / 国際学会発表 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度に引き続き、平成30年度も、音象徴現象が身体的基盤をもつがゆえに有契的で普遍的な要素をはらむ一方、言語記号の恣意性が乗り入れていることもふまえ、恣意性・有契性の両面から音象徴的意味の体系性を探る、という研究計画の遂行を継続した。本課題の目標は、複数の言語で実験を行い、(1)音象徴に現れる言語間の差異と恣意性の確認、(2)音象徴に影響をおよぼす音韻体系とオノマトペ体系の要因分析をすること、また通言語的データによる類型論的モデル構築を長期的目標とし、(1)(2)をもとに、多様な言語で音象徴実験を行うための枠組み構築を目指し、対象言語の基礎調査、仮説構築、実験設計を行ってさらなる発展への基盤とすることである。 平成30年度は、音象徴に関与する知覚情報のうち、食感にかかわる現象、および他者の暴力性・邪悪さといった、人物の行動や性格的イメージにも対象を拡大してデータ収集を進めた。商品名・キャラクター名のコーパス調査も採り入れて、データの実証性を高めた。また、平成29年度に用いた刺激語群が母音で始まり、子音を2つもつ形(ibib, etetなど)であったのに対し、音声学的特性を抽出しやすくするため語頭子音のみをターゲットとした刺激語群を新たに作成して実験を行った。 その結果、英語と日本語についてこれまでの知見をさらに強化する結果が得られた。有声阻害音が無声阻害音よりも悪者に多いこと、また両唇音は悪者には相対的に少ないという結果を得た。食感については、新規に構築した刺激語群をもちいて日本語話者について調査し、これまでの知見を補完する結果を得たが、これまで気づいていなかった新規な音象徴序列も発見した。これらの成果は、国内外で開催された2つの国際学会で発表した。 また、韓国語、スペイン語について、日本語の音韻構造の違いとオノマトペ構造の違いをふまえた実験の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「有声阻害音に関する音象徴現象には言語差が存在する」という仮説について、平成29年度に日本語と英語の言語差を実験的に確認できたが、平成30年度には、さらにその言語差がどこからくるかという動機づけについての考察が大幅に進展した。具体的には、調音音声学、音響音声学の知見を、協力者を得て収集し、これまでに検出された日本語と英語の音象徴的反応の違いが何に起因するのかと詳しく考察した結果、阻害音の有声性の音響音声学的特性が浮上した。すなわち、VOTとvoicingにおける違いが動機づけの候補として挙がった。また、この動機づけの信憑性を確認するには、英語と日本語の違いを生じさせているカテゴリーを用いて分類することができる外国語を調査するのが有益であることがわかった。具体的には英語の性質に近いドイツ語と、日本語の性質に近いフランス語である。 一方、日本語や英語とは系統的・地理的に異なる韓国語、スペイン語に調査を拡大することを目指して実験の準備を行っていたところ、協力者として予定していた情報提供者が帰国するなど不測の事態が起き、こちらの進展は予定よりも遅れる結果となった。 全体としては、当初想定していたのと異なる方向への発展がなされたことで、全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は本課題の最終年度となる。これまでに音象徴(特に「硬さ」と「邪悪さ」のイメージ)の通言語比較に着手しているので、これを引き続き実施し、音象徴の普遍性と言語間の差異をさらに分析する。 上記の進捗状況で述べたように、当初予定していた韓国語とスペイン語の協力者がうまく機能していないため、別途計画に追加したフランス語とドイツ語の調査を確実に実施する計画である。それにより、語頭破裂音の有声性がもたらす音象徴的イメージ(特に「硬さ」について)の言語間差異の原因が、語頭破裂音の音響音声学的差異に起因しているかどうかが分析できるはずである。これに成功すれば、音象徴的イメージ喚起にみられる言語間の差異が音声学的動機づけによって引き起こされていると考える妥当性が高まる。これが実証された場合、音象徴の動機づけの類型論に新たに知見を加えることが可能になるものと期待できる。 具体的には、オンライン・アンケートの方法で、海外在住の被験者も含めて、ドイツ語、フランス語の話者からデータを集め、それぞれ英語、日本語と似た結果になるかを検証する。予想どおりの組み合わせ(英語とドイツ語、日本語とフランス語がそれぞれ似た類型)になれば、当該の言語間差異の原因はこれらの言語の語頭破裂音の音響音声学的違いである可能性が高まる。
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Causes of Carryover |
分担者の宇野の分担金 250,000円のうち、5,257円が残金となり、次年度繰越となった。これは旅費のうちの航空券代金における誤差であり、ほぼ予定どおりに執行したと言える。次年度は、この5,257円を宇野の海外旅費に含め、計画通り執行する。
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Research Products
(5 results)