2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K02682
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
町田 章 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40435285)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 認知文法 / 共同志向性 / 事態把握 / 間主観性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,Langackerの認知図式では十分に記述しきれない共有志向性に基づく事態把握の認知モデルを提案することにある。Langackerの認知図式は,認知主体が事態を外から眺めるというステージモデルを前提としているため,話し手と聞き手が互いに志向性を共有する共有志向性を詳細に図式に反映させることが難しい。そのため,話し手と聞き手の共同注意が深く関与している,いわゆる‘省略現象’が頻繁に見られる日本語のような言語を正しく記述することができない。本研究では,Tomasello(2014)等で主張されている共有志向性の観点から主観性(客観性)の問題を捉えなおすことにより,共有志向性を組み入れた新たな事態把握モデルを提案する。 本年度はエストニアにおいて開催された国際認知言語学会14大会(International Cognitive Linguistics Conference 14: ICLC14)において口頭発表を行った(On "Objective" Construals: A Cognitive Account of (Inter)subjectification)。この発表において,Langackerが観察しているIt's hot in Chicago.とChicago is hot.という表現に見られる主観性の差異を生み出す認知メカニズムを明らかにするとともに,間主観性は拡張型間主観性と収縮型間主観性の二つに分類する必要があることを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで,話し手が自分を把握する様式には,自分を事態の参与者として自分から見えた状況をそのままに把握する事態内視点と自分を客体視して事態の外から傍観者的に自分を眺める事態外視点があると主張してきた。仮にこの事態内視点が自己把握の原初的なあり方であり事態外視点は仮想的な自己把握のあり方だとすると,問題となるのは,人間はなぜ事態外視点をとることができるのか,言い換えると,人間はどうやって自己を客体視することができるかということになる。本研究では,それは話し手が他者の視点をシミュレーションすることができるからであると結論づけた。つまり,話し手は他者の視点を通して自分をモニタリングしているのである。これが,事態外視点を生み出す認知メカニズムであり,一般に間主観性と呼ばれる現象に基づいた事態外視点の説明である。 しかしながら,ここで問題となるのは,そもそも間主観性は言語現象全般に関わっている問題であり,事態外視点に限られないはずであるという事実である。つまり,言語現象に現れる以上,事態内視点にも間主観性が関わっているはずなのである。実際,「羽田が近づいてきた」という典型的な事態内視点の表現においても「羽田が近づいてきたよ」というように聞き手に視点の共有を促す表現が可能である。ということは,極めて主観的な事態把握のあり方である事態内視点においても間主観性が成立することになる。そこで,現在,事態外視点に見られる間主観性を拡張型間主観性とし,事態内視点に見られる間主観性を収縮型間主観性と名付け区別することを提案している。収縮型の間主観性は,話し手が他者と対峙していないときに持つ,他者も自分と同じように物事を見,感じているはずだという感覚に依拠していると考える。つまり,他者の主観を話し手の主観に同化させる感覚である。これは他者の主観に入っていく拡張型の間主観性とは明らかに異なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で,間主観性を拡張型と収縮型に区別する必要があることが明らかとなった。拡張型の間主観性は他者の主観をシミュレーションすることにより,より客観性(公共性)を帯びる方向に話し手の主観が拡張して行くのに対し,収縮型の間主観性は他者の主観を話し手の主観に同化させることにより,より主観性を強める方向に収縮していく。 そして,前者のタイプは英語によく見られ,後者は日本語によく見られることから,英語と日本語に見られる様々な違いがこの間主観性の違いから生じている可能性が浮上する。特に,グラウンディングが間主観性に基づいて行われていると仮定すると,英語のグラウンディングシステムと日本語のそれとは異なることが予測される。実際,英語に基づいて構築された認知文法のグラウンディングシステムは日本語には全く当てはまらないことが知られている。仮に冠詞を持たない日本語の名詞句もグラウンディングされていると仮定すると,収縮型間主観性に基づく言語では,ゼロ形でグラウンディングするという予測が立つ。そして実際,日本語における代名詞のゼロ照応,認知主体が表現されない主観的表現など,様々ないわゆる省略現象が収縮型間主観性の特徴として説明される可能性が見えてくる。今後は,収縮型間主観性に基づいたグラウンディングシステムの観点から日本語の省略現象に焦点を当て研究する予定である。
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Causes of Carryover |
端数が生じたため,無理に執行せずに次年度に繰り越した。参考資料の購入に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)