2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Semantic Structures of Copular Sentences and Definiteness of Noun Phrases
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17K02684
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 千明 佐賀大学, 全学教育機構, 教授 (10153355)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分裂文 / predicational it-cleft / proverbial it-cleft / 措定文 / (倒置) 指定文 / 指示的名詞句 / 変項名詞句 / 叙述名詞句 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主として、it分裂文がもつ指定の解釈と措定の解釈との相違に関する研究を行った。WH分裂文が指定と措定の両方の解釈をもつことは広く認められているが (Higgings 1979)、it分裂文についても、措定の解釈が可能なものがあるという議論が行われてきた (Ball 1977、Declerck 1988、Hedberg 1990)。その例として挙げられる (1)predicational it-cleft (Declerck 1988) (e.g. It was an INTERESTING meeting that you went to last night)、(2) proverbial it-cleft (e.g. It is a long lane that has no turning)、(3) less proverbial it-cleft (e.g. It is a good divine that follows his own instructions) を詳細に検討し、(1) は、本質的に指定文であると考えられること、(2)、(3) についても、焦点名詞句の叙述的な要素に際立ちがあるものの、指定文とみなすことができるケースがあることを明らかにした。また、(2)、(3) が措定の解釈をもつ場合、WH節の内容と焦点名詞句による叙述との間には、前者が後者の判断の根拠を示すという、意味論的、語用論的なつながりがあるという指摘を行った。これまで十分に理解されてこなかった名詞句の指示性の観点から、it分裂文のみならずth分裂文 (e.g. That was John that I saw) の主語代名詞の意味機能を探り、it分裂文を統語的に指定文、動詞文の何れと対応させるべきかという問題の解決につながる様々な観察を示した点においても意義深いものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定されていた作業のうち、潜伏疑問文、潜伏命題文、潜伏感嘆文に現れる名詞句の特性の考察は不十分であったが、情報構造を検討し、焦点の概念を整理するという目標は、it分裂文の指定・措定の解釈を考察することにより、ある程度達成された。また、it分裂文、th分裂文の種々のタイプを調査することにより、コピュラ文の分類の再考を行うという大きな目標に向けて、資料を整理することができた。研究成果の公開という点では、研究会において措定の解釈をもつとされるit分裂文の諸特性に関するトークを行って、参加者と有意義な意見交換をし、その後の検討を加えて、論文の形で発表した。it分裂文の指定と措定の解釈の相違は、焦点名詞句の定性と関わるものであり、この観点から探求を進めることは、本研究課題の柱である、定名詞句、不定名詞句の意味機能の解明に貢献するものである。このように、一定の成果を上げることができたため、達成度は十分であったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、これまでの研究の総括を行い、さらに次の作業を行う。 (1) it分裂文の指定と措定の区別を考える際に手掛かりとした、変化文の解釈 (変貌の読み、入れ替わりの読み) を検討し、指定のit分裂文がもつ、指定文、動詞文とは異なる特性を明らかにする。(2) 潜伏感嘆文のうち、名詞句外置と呼ばれる構文 (e.g. It’s amazing the height of that building) に現れる定名詞句の意味機能の考察を深める。(3) コピュラ文の前後の名詞句の意味機能、語用論的機能に注目し、倒置指定文、措定文の倒置形、提示文との相違を詳細に検討する。また、混同されやすい指定機能、提示機能の違いを明らかにするために、焦点の概念の精密化を行う。(4) 名詞句の様々な解釈を説明するために提案されてきた種々の概念 (指示的名詞/叙述名詞句/叙述名詞句、事象様相/言表様相、指示的用法/帰属的用法、特定的/非特定的、個体/個体概念) が、コピュラ文中の名詞句の意味機能の解明にどの程度有益であるかを検討する。これまでの研究の成果を、日本言語学会、日本語用論学会、国際学会などで発表する。
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Causes of Carryover |
研究成果の発表を予定していた学会の開催が一年延びたため、海外出張を行わなかった。また、ワークステーションの購入を予定していたが、仕様等の検討がまだ不十分であると判断し、購入を見送ることとした。このような理由から、未使用額が、次年度に持ち越されることとなった。
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