2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Semantic Structures of Copular Sentences and Definiteness of Noun Phrases
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17K02684
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 千明 佐賀大学, 全学教育機構, 教授 (10153355)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | (倒置)指定文 / 措定文 / 同定文 / 倒置構文 / 存在文 / 主語接触関係節 / 情報構造 / 名詞句の指示性 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)主格の関係代名詞が省略された主語接触関係節(SCR)(e.g.There's a woman wants to see you.)の容認可能性に関しては、提示機能(Lambrecht 1988、den Dikken 2005)や、先行詞の指示性(Doherty 1993、2000)による説明が行われてきたが、いずれも不十分である。SCR構文は、世界の中の対象、個体ではなく、出来事に注目した表現であり、命題関数を表す変項名詞句(西山 2003、2013)の概念を用いて、そうした捉え方の説明が可能となることを示した。 (2)同定文(e.g.That woman is the Mayor of Cambridge.)は、指示対象について性質をコメントする機能をもたず、be動詞の後の名詞句は指示的名詞句であるが、個体指示的ではないという特徴をもつ。同定文を措定文とみなし、be動詞の前後に現れる名詞句の識別性の相違とその指示対象の同一性によって説明しようとする Heller(2005)の議論の問題点を指摘した。 (3)倒置指定文を措定文の倒置と考える立場(Mikkelsen 2005、Patten 2012)では、変項名詞句と叙述名詞句の区別がなされない。不定名詞句が主語の位置に現れた場合に、倒置指定文(e.g.An example of a superpower is the Soviet Union (Declerck 1988))と、措定文の倒置形(e.g.Also a nice woman is our next guest (Birner 1996))とでは、文の意味構造が全く異なることを示した。また、提示機能をもつ措定文倒置形は、‘aboutness’(「ついて」性) をもたないという点で、通常の措定文とは異なるものであることを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度に研究を進める予定であったトピックのうち、法助動詞を伴うコピュラ文の入れ替わりの読みについては、より詳細な議論のため、さらに先行研究の検討を行い、一定の成果が得られたが、論文として刊行するに至らなかった。潜伏感嘆文の一種とされるNE (名詞句外置e.g.It's amazing the height of that building.) に関しては、外置された定名詞句の意味特徴を探るために、コーパスを用いて、十分なデータを収集することができた。この外置された名詞句は、個体指示の名詞句ではないことは明らかなものの、変項名詞句、属性範囲限定辞、数量、種類、様態の表現など、解釈の幅があり、その意味特徴の統一的な説明に関しては、未解決の問題が残った。焦点の概念については、SCRの情報構造との関連において考察を進めることができた。倒置指定文を措定文の倒置形と位置づける考え方の問題点は、十分に検討することができ、研究成果を口頭で発表した。また、今年度に予定されていなかったが、同定文の特性について解明が進み、成果を研究会において口頭発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、これまでの研究の総括を行い、さらに次の作業を行う。 (1)コピュラ文に現れる名詞句の意味機能、それぞれのタイプのコピュラ文の意味構造を明確化し、コピュラ文の分類について、より説得力のある、体系的な説明を目指す。コピュラ文に現れる名詞句の定性と解釈の関りについて、考察を深める。 (2)倒置指定文と他の倒置構文との違いを、指定機能、提示機能の観点から再検討する。NP倒置のみでなく、AP 倒置、PP倒置についても広くデータを収集し、しばしば混同される、値の付与を行う指定機能と、視点の誘導を行う提示機能の区別を明らかにする。これまでに提案されてきた様々な「焦点」の概念を整理して、精密化を図る。 (3)変項名詞句の概念の適用範囲の拡張について検討する。これまで、潜伏感嘆文の一種であるNE構文、主語接触関係節構文などの容認可能性を、変項名詞句の概念を用いて説明する可能性を探ってきたが、さらに多くの構文に適用し、文中における名詞句の意味機能の解明を試みる。 (4)これまでの研究の成果を、国内外の学会で発表し、論文として刊行する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大により、予定されていた研究会 (慶應意味論・語用論研究会) がZoom による開催となり、国内出張を行わなかった。また、ワークステーションの代わりに、通常のパソコンを購入した。未使用額は、研究成果発表のための国内出張費、インフォーマントの謝礼、言語学、哲学分野の図書購入費に充てる計画である。
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