2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Semantic Structures of Copular Sentences and Definiteness of Noun Phrases
Project/Area Number |
17K02684
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 千明 佐賀大学, 全学教育機構, 名誉教授 (10153355)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 存在文 / 数量詞 / 擬似関係節 / 分裂文 / 変項名詞句 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、存在文の解釈について考察し、数量詞が現れる例において、指定コピュラ文と密接な関連をもつ絶対存在文(西山2003, 2013)としての解釈以外の解釈も可能であるかどうか、検討した。McCawley(1981)は、疑似関係節は通常の関係節と異なり、変域の決定に関与しないため、多重構造をなす場合には、関係節の順序によって真理条件が変わると主張する(e.g.There are many Americans who want to reinstate the death penalty who wrote in Spiro Agnew for President. /There are many Americans who wrote in Spiro Agnew for President who want to reinstate the death penalty.)。これらの例は、第一関係節の特徴をもつものを基準にして、その中の割合を問題にするという解釈をもつという。しかし、実際には、絶対存在文と解釈される場合と、第二関係節が独立の命題として解釈される場合とで曖昧であること、また、後者の場合にも割合を表すと解釈する必要はないことを明らかにした。さらに、Davidse(2000)のいうcardinal there cleft (e.g.There’s only one thing that’s that shape.)について、その特性を絶対存在文と比較して検討した。that 節以下が変項を表すとするDavidseの主張は、enumerative there cleft (e.g.There’s only Humpty Dumpty that’s that shape)には当てはまるが、cardinal there cleft については問題が残ることを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度に研究を進める予定であったトピックのうち、コピュラ文の分類の再検討については、特に同定文の特性を、措定文、同一性文との比較においてさらに解明することができ、一定の成果が得られた。Woodard(2018)は、コピュラ文の分類の簡略化を図り、Donnellan(1966)のいう定名詞句の帰属的用法、指示的用法の区別と情報構造のみに基づいて、さまざまなタイプのコピュラ文を全て説明できると主張する。この議論の問題点を指摘し、さらに、コピュラ文の分類に関する他の先行研究も批判的に検討したが、論文の刊行に至らなかった。NE (名詞句外置e.g.It's amazing the height of that building.)については、コーパスから得られたデータを用いて、外置された名詞句の特性の解明を進め、さらに主語位置にit 以外の代名詞が現れる例も収集することができた。it は非指示的な虚辞であり、そのことが外置された名詞句の非指示性を裏付けるとされてきたが、this やthat が現れることから、その指示性に関する再検討の必要性が明らかとなった。倒置指定文と他の倒置構文との比較については、不定名詞句が文頭に現れた文例の収集は進んだが、指定機能・提示機能の相違と情報構造の関わりについて、未解決の問題が残された。今年度に予定されていなかったが、存在文に現れる関係節について、変項を含む命題関数という観点から、指定文との比較において、詳細な検討を行った。多重関係節が現れた存在文が絶対存在文と解釈される場合と、疑似関係節を含むと解釈される場合との相違点を明らかにし、研究成果を口頭で発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、これまでの研究の総括を行い、さらに次の作業を行う。 (1) コピュラ文に現れる様々な名詞句の意味機能をさらに明確化し、コピュラ文の分類に関するこれまでの研究の不備を補完する。特に、同定文の述語名詞句の特性と、指定文の述語名詞句(変項名詞句)の特性について、名詞句の定性、指示性、代用表現の選択、倒置可能性、情報構造の観点から、考察を深める。(2) 関係節の先行詞が主節内でもつ意味機能と、関係代名詞が関係節内でもつ意味機能との間に相違があるケースを詳細に検討する。非制限的な関係節 (e.g.Smith’s murderer, which turned out to be Jones, was arrested last night.) ばかりでなく、制限的な関係節 (e.g.The gifted mathematician that you claim to be should be able to solve this equation.) についても考察し、名詞句の指示性の解釈に語用論的な推論がどのように関与するか、そのメカニズムを探る。(3) NE において外置された定名詞句の意味特徴の体系的な説明を試みる。外置された名詞句が示すのは個体ではなく、どのような値が入るか、どのような属性をもつか、などそのありようが問題となる点に特殊性がある。外置された名詞句の指示性と、主語位置の代名詞の指示性との関わりについても検討する。(4)研究の成果を、国内外の学会で発表し、論文として刊行する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大により、予定されていた研究会 (慶應意味論・語用論研究会) がオンライン(Zoom)で開催され、国内出張を行わなかった。また、主としてコーパスを用いてデータを収集し、インフォーマントと直接面談して情報を収集する機会がなかった。未使用額は、研究成果発表のための国内出張費、インフォーマントへの謝礼 (英文校閲やデータ収集など)、言語学、哲学分野の図書購入費に充てる計画である。
|