2018 Fiscal Year Research-status Report
Consonant cluster changes in Indo-Aryan: From diachronic and synchronic perspectives
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17K02702
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
鈴木 保子 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00330225)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中期インド・アーリア語 / アショーカ王碑文 / 音変化 / 同化 / 母音挿入 / 子音結合 / 方言 / 音転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度に執筆した論文は以下の2本、いずれも現在審査中である。1本目はPeter Scharf氏より投稿要請があったGeorge Cardona教授の記念論集で、The development of r-clusters and syllabic r in Asokan Rock Edictsである。アショーカ王碑文の岩石詔勅のrがある子音結合および成節的rの発達を扱ったもので、同化によりrが失われる程度やrにより引き起こされるそり舌化はrと他の子音の順番により非対称的で、方言により違いが見られる。2本目はThe development of y-final clusters in Asokan Rock Edictsで関西外国語大学研究論集第110号に投稿済みである。同じく岩石詔勅のyで終わる子音結合の発達を扱っており、yの前の子音の調音方法・調音点などの特徴や方言によりそれぞれ異なる発達を示す。 その他では、The development of labial clusters in Asokan Rock Edictsを執筆中で、9月に関西外国語大学研究論集111号に投稿予定である。中期インド・アーリア語の子音結合が同化または母音挿入により失われる傾向がある中で、アショーカ王碑文岩石詔勅の西部方言における子音結合のvまたはmが両唇閉鎖音に変化するsv > sp; sm > spという特徴的な現象に関するものである。さらにThe development of stop clusters in Asokan Rock Edictsが準備中で、岩石詔勅における閉鎖音またはl+閉鎖音・摩擦音+閉鎖音・閉鎖音+摩擦音・閉鎖音+鼻音の4種類の子音結合の変化を扱っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成29年度は検証する文献の選択と方法論の確立に費やしたが、29年度末から30年度始めにかけて中期インド・アーリア語最初期のアショーカ王碑文のうち、方言の違いが明確に現れている岩石詔勅を精査する、また、先行研究では得られなかった成果を出すため、岩石詔勅に見られる全ての子音結合を詳細に調査することに決めた。扱う方言は西部のギルナール・シャーフバーズガリー・マーンセーフラーと東部のカールシー・ダウリ・ジャウガダの6方言に絞り、ドラヴィダ語圏で東部方言と同じ特徴を示す南部のエーラグディー・サンナティは調査の対象から外した。まず着手したのが比較的数が多く西部・東部の違いが明確に現れているrを含む子音結合、次にyを含む子音結合に関する論考をまとめ、さらに唇音v mを含む子音結合・閉鎖音を含む子音結合に関する研究が進行中である(「研究実績の概要」参照)。さらに、rを含む子音結合の発達に関する論考において、古期インド・アーリア語のr+子音が北西部方言で音転換により子音+rとして表記されることに着目したが、アショーカ王碑文北西方言およびダーディック諸語に見られるrの音転換に関する論考が構想段階にある。扱う文献と対象となる現象を決めることができたので初年度の遅れを取り戻すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で挙げた投稿済み2本・準備中2本の論文でアショーカ王岩石詔勅の子音結合のタイプがほとんど網羅される。その他では鼻音+閉鎖音など鼻音で始まる子音結合の資料も現時点でほぼまとまっている。これにより岩石詔勅の全てのタイプの子音結合の発達を分析することになり、その結果をもとに子音結合のタイプや方言による発達の違いを精査する。閉鎖音+閉鎖音のように比較的安定して画一的な変化をたどる子音結合と、閉鎖音+鼻音のようにもともと子音結合自体不安定で多様な発達を示す子音結合、またそり舌化や口蓋化・音転換などを伴う発達などがどのような条件で起こり、方言によるどう異なるかを明確にする。アショーカ王碑文の北西方言およびダーディック諸語に見られるrの音転換に関する研究では、一般音韻論の観点からr音性が気音や鼻音性と同様、他の口腔内ジェスチャーと独立しているため、より安定した韻律位置に移動することにより音転換が生じたことを示す。 本プロジェクトの最終段階として、中期インド・アーリア語の子音結合の変化を概観する。分析の基盤となるのはGoldstein and Fowler (2003)など調音音韻論、Blevins (2013)など進化音韻論の音声学に基づいた理論的枠組みに、最近ではGordon (2016)に代表される類型論研究の成果、および音韻現象が複数の独立した要因の相互作用により生ずるという最適性理論の知見も取り入れる。現時点で予測される結論は、中期インド・アーリア語では同化・弱化・音転換が結合した他に例をみない包括的な子音結合の変化がおこっているが、これは声や調音点の逆行同化・摩擦音の弱化・r音の音転換など、より小規模な多数の音韻過程の集積であり、一見特異な現象も一般的・自然な要因の相互作用から帰結することを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度3月にアメリカ合衆国プリンストン高等研究所およびプリンストン大学図書館における文献調査を予定していたが、健康上の理由で中止したため、268,245円の次年度繰越金が生じた。31年度分100,000円と合わせて368,000円のうち100,000円は論文校正の費用に、残り268,245は図書費に充てる。
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