2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02708
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 知己 北海道大学, 文学研究院, 教授 (40231344)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイヌ語 / 古文書 / アイヌ語史 / 蝦夷寿那子 / 蝦夷談筆記 / 蝦夷言留 |
Outline of Annual Research Achievements |
松宮観山「蝦夷談筆記」は、ごく最近まで、成立年代(1710)が明記された日本側最古のアイヌ語文献であり、アイヌ語研究上、資料的重要性が極めて高い資料であったが、書写年代が新しい写本が多く、アイヌ語部分には少なからぬ誤写が見られる点に問題があった。従って原形により近い写本を発見する必要性が以前から感じられていた。佐藤の以前の研究により「蝦夷談筆記」の文献的研究に重要な意義を持つ異本として東北大学付属図書館狩野文庫の「蝦夷寿那子」が知られていた。語彙部分も含め、蝦夷談筆記と大きな異同のあることが明らかとなっていた。しかし、これまで他に写本がないためにその異同の位置付けが不明であった。今回、早稲田大学本を調査することによって、早稲田本は誤写や不整序な点まで東北大狩野文庫本とよく一致し、同系統であることが判明した。すなわち現在知られている「蝦夷寿那子」の問題部分は非常に古い時代にまで遡る特徴であり、それらを単なる誤写として処理することは得策ではなく、アイヌ語史の観点からさらに深く検討する余地のあることが明らかとなった。また、「蝦夷言留」という写本の筆者が、國學院大學金田一文庫が所蔵する「唐太アイヌ語彙 坤」の筆者である鈴木直太郎と同一人物であることが判明し、江戸時代唯一のまとまった樺太アイヌ語資料と思われる「樺太アイヌ語彙」の今後の研究に重要な手がかりとなることが判明した。そのため、主として用字法について詳細な分析を行った結果と、本文の翻刻、影印を付した報告書「蝦夷言留の研究」を作成した。なお、アイヌ語古文献の言語学的な分析に必要なアイヌ語の共時的分析も同時に進め、論文、報告書を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に終了した関連の研究からの知見も活用しつつ、新しい文献の調査、分析も進んでおり、仮説の実証も進行している。当初予定していた1700年代前半のアイヌ語資料については現在までに知られている主な文献、及び関連する文献の詳しい分析を終了し、その成果の刊行も順次行っている。また、古い時期の文献には現代のアイヌ語資料だけでは研究が難しいものが数多く含まれており、古い時期のアイヌ語古文献資料の分析に役立つと思われる関連資料の集積、整理分析も非常に重要であるが、上原熊治郎「藻汐草」のデータベース化、現代の方言資料がほとんど知られていない北海道日本海西岸部地方のアイヌ語文献の整理・分析、江戸時代の文献を理解するのに有益な手がかりとなる明治初期のアイヌ語資料の収集、整理、分析も同時進行的に進んでおり、今後、これまでの研究結果の検証、補強とともに、未研究の文献の解析作業もより容易になると考えられるからである。また、資料整理の方法がこれまでの経験によってある程度確立され、1. アイヌ語情報の整理、分析、2. 日本語情報の整理・分析、3. 用字法の整理・分析が容易になり、多方面からの資料索引を作成して分析することが可能となったこと、その結果を報告書の形で刊行してアイヌ語古文献の全体像を実証的に開示することが可能となったこと、また、写真資料を影印として添付する手順が確立されて、それにより研究結果の確認、検証がより容易になったことも理由としてあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、アイヌ語古文献資料そのものの調査、集積の範囲をさらに広げていく必要がある。これまでの研究では、北海道、本州東部についてはかなりの程度、主要な調査は終えたが、部分的には未調査の地域(茨城県、福島県、富山県)が残っている。また、本州西部については、天理大学、京都大学のような所用な所蔵先への調査は既に行っているが、明らかに不足しており、重要な資料の所蔵確認を急ぐ必要がある。 次に、アイヌ語古文献資料は古い時代の資料であるため、分析が難しい点が多く、なるべく多くの観点からの異なる分析を行うことが、そのより深い解明には必要である。たとえば、これまで、アイヌ語資料の中で、千島方言は資料の集積、分析が相対的に進んでいないため、アイヌ語古文献資料の分析に活用されてこなかった点が否めないが、これまでの本研究によって、千島方言資料がアイヌ語古文献の分析に役立つケースのあることが次第に明らかとなって来ている。類似の事例は他方言に関してもあると考えられ、今後、より一層、広い見地からの見直しが新たな知見を得るためには不可欠である。そのためには、海外や明治期の資料にも目配りをして、より総合的な観点からアイヌ語史を構築する努力を行うことが望まれる。
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Causes of Carryover |
おおむね予定通りの予算使用を実施したが、印刷費が枚数単位で計上されるため、費用計上の最終段階において調整が困難な端数が生じたため。次年度の文献複写費に繰り込んで使用する計画である。
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Research Products
(3 results)