2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02713
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
丸山 由紀子 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (20401432)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 15世紀ロシア教会スラヴ語 / 中世セルビア語 / パホーミイ / ラドネシのセルギイ伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシアの言語文化では14世紀末から南スラヴの影響が強まったが、その最盛期となる15世紀にモスクワ、ノヴゴロドで教会文献の執筆に携わったセルビア出身の修道僧パホーミイ・ロゴフェートの活動を言語面から明らかにすることで、当時の修道院における文字文化活動を解明する一助とするのが、本研究の目的である。 その第1段階として、本年はパホーミイが手がけた「ラドネシのセルギイ伝」の自筆写本の言語分析を行った。自筆写本は2点現存するが、本年分析対象としたのは15世紀40年代に成立したロシア国立図書館(サンクト・ペテルブルク)所蔵ソフィヤ・コレクション№1248である。セルビア語を母語とするパホーミイの言語に関して、今年度は音声的・音韻的体系と書記体系の分析を行った。全体的に、パホーミイの言語はセルビア語的特徴に満ちたロシア語といえる。セルビア語的特徴として代表的なものは次の3点である。①セルビア語では10-11世紀に弱化母音ъ, ьの区別がなくなり、文字としてはьのみが使用されるようになったため、弱化母音字ъを使用せず、ロシア語ではъであるべき箇所もьと綴る。②セルビア語ではы[y]はи[i]に移行したため、ロシア語であればыとあるべき箇所で、иが綴られている。③セルビア語では鼻母音[en]が[e]に移行したが、ロシア語では[en]は[ja]に移行した。そのため、ロシア語であればяとあるべきところでеと綴られている。 しかし、パホーミイはъ, ы, я/enを一切使用しないわけではない。自筆写本にはこれらの文字も随所で使用されており、パホーミイがセルビア語一辺倒ではなく、ロシア語に寄せて書こうとした努力が垣間見られ、本研究ではこれらの文字の使用条件を明らかにした。現在、パホーミイの自筆と推定される写本が次々と発見されているが、それらを言語面から同定するのに本研究の成果は欠かせないものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パホーミイの「ラドネシのセルギイ伝」自筆写本(ソフィヤコレクション、№1248)において、セルビア出身のパホーミイの言語として問題となる言語的特徴はすべてデータベース化した。また、その分析も3分の2ほど終え、終わったものから順次、論文用に記述している。 また、今後比較分析するロシアの修道士が作成した写本(三位一体セルギイ大修道院コレクション、№116)に関して、自筆写本と異なる箇所もすべてデータベース化済みである。 合わせて、関係する学術文献の収集も随時行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は写本を用いて言語分析を行っているが、使用しているのはデジタル画像である。ただ、画像では文字の判別が難しい箇所があるので、本年度はサンクト・ペテルブルクの国立図書館に赴き、ソフィヤコレクション、№1248、ならびに今後の研究で使用するキリロ・ベロゼルスキイ修道院コレクション№16/1255を閲覧し、確認を行う。 今後予定しているパホーミイ版「ラドネシのセルギイ伝」研究ならびに論文執筆は次の通りである。 1)自筆写本「ソフィヤコレクション、№1248」言語分析。①音・音韻体系と正書法 ②形態、統語、語彙の特徴 2)ロシアの修道士が作成した写本「三位一体セルギイ大修道院コレクション、№116」「キリロ・ベロゼルスキイ修道院コレクション№16/1255」と自筆写本の比較、ロシア側で施された言語的修正を明らかにすると共に、当時のロシア教会スラヴ語のスタンダードに関する考察を行う。 3)「三位一体セルギイ大修道院コレクション、№116」と「キリロ・ベロゼルスキイ修道院コレクション№16/1255」の比較。修道院間の違いを検討する。 4)「ラドネシのセルギイ伝」を最初に執筆したのはエピファニイ・プレムードルイ(1417-1418年)であり、パホーミイはこのエピファニイ版「セルギイ伝」を参照している。「ラドネシのセルギイ伝」研究の出発点であり、中世ロシア文学において極めて重要な作品であるこの聖者伝を日本語に訳し、今後5年ほどかけて順次発表する(共訳)。
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Causes of Carryover |
初年度は必要な資料はすべて図書館、書店、ネット、を通じて入手し、それらを用いて国内のみで研究活動を行った。そのため、当初予定していた旅費は使用せず、次年度のロシア出張での成果を最大限にするための、基礎研究に専念した。2018度は初年度で得られた研究成果をもとに、ロシアにおいて、本研究に関連する地方修道院を複数視察し、サンクト・ペテルブルクの国立図書館にて写本の閲覧、資料収集を行う。ロシア出張は8月中旬から9月初旬を予定している。地方を回ること、加えてまだ観光シーズンなこともあり、サンクト・ペテルブルクのホテル代が他のシーズンより高騰するため、多額の旅費が必要となるため、そちらに充当する。
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Research Products
(1 results)