2017 Fiscal Year Research-status Report
多言語・多文化社会の言説におけるポライトネスの日独対照社会言語学的考察
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17K02726
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 仁 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70243128)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ポライトネス / 語用論 / 対照社会言語学 / 協調の原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
【具体的内容】平成29年度は、予定通りポライトネス研究や対照社会言語学的研究、語用論的研究の理論的な前提となるPaul Griceの「協調の原理」に関する問題について理論的に考察した。その背景としては、ドイツにおけるポライトネス研究には、よりよい人間関係を構築するための「ポライトネスストラテジー」についての考察が多く見いだせるが、インポライトネスの研究は比較的少ない。その基本となる考え方がどこに端を発するのかを突き止めるため、ドイツにおける語用論の研究をあたってみると、やはりGriceの研究が、ほぼ無批判に「世紀の大発見」などとしてとらえられていることが明らかになった。そこで、Griceの研究の前提に潜む問題を、Levinsonの語用論の入門書などを用いて明らかにした。端的に言えば、西洋特有の二項対立的な思考パターン、自文化中心主義(エスノセントリズム)に対する無批判な態度、コミュニケーションを一面的に捉えようとする姿勢などが、そこに見いだせる問題である。 【意義・重要性】Griceの「協調の原理」にある、量の公理、質の公理、関連性の公理、様式の公理という4つの公理に関しては、これまで主にそれぞれの公理の間に重なる部分があると言った議論がなされてきた。あるいは、ポライトネスという現象は量の公理に違反する、というような批判が存在していた。しかし、問題は、このような「公理」の存在そのものにあり、語用論という研究が、「よりよいコミュニケーション」の追求にシフトしてしまった点にある。そして、だれにとって「よりよい」のか、だれが「よりよい」と判断するのかと言った問題がなおざりにされてきた。このような問題を提起することによって、研究そのものも「原理」から解放され、ある特定の文化に依存されない、より複雑なコミュニケーション上の問題が自由に分析できることになると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、研究実施計画に書いたように、理論的な部分での考察を行うつもりであった。そのため、ドイツ語で記された語用論の基本的な研究にあたり、それらの書物においてGrice の「協調の原理」がどのように取り上げられていたかを確認した。そして、上記の具体的内容や意義で記したような知見を得るに至った。また、2020年にイタリアのパレルモで予定されている国際ゲルマニスト会議(IVG)の語用論のセクションにおいても、本研究に関係する内容についての発表が認められ、イタリアのClaus Ehrhardt教授やドイツのRita Finkbeiner教授らとともに、その運営に携わることになった。その一環として、日本の何人かのゲルマニスト、あるいは韓国のゲルマニストにも声をかけ、本研究との共同研究の可能性についても議論してきた。さらに、大阪大学言語文化研究科の卒業生や在校生とともに、ポライトネスに関するワークショップなども計画している。そのような、さまざまな研究者との、広い意味でのコラボレーションによって、個人では限界がある多言語・多文化社会におけるポライトネスについての考察を深化させる土台ができたと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
【ヨーロッパ出張】平成30年度は、研究実施計画に記したように、ドイツへ行き、デュースブルク大学のUlrich Ammonやベルリン自由大学の野呂香代子、あるいはオーストリア、インスブルック大学のManfred Kienpointnerと会う予定である。予定があえば本研究と密接な関係のあるIVGのセクションについて話すためイタリアのClaus EhrhardtやRita Finkbeinerとも会いたいと考えている。ただし、Kienpointnerは、来年のアジアゲルマニスト会議にも参加する予定であると聞いているので、未定の部分もある。 【研究会】2018年の2月18日にも、大阪大学文学部でヘイトスピーチに関するワークショップが開催された。そこではポライトネスに関する議論もなされており、インポライトネスの観点からヘイトスピーチのような現象をとらえる試みもなされていた。そこで、言語文化研究科の在校生や卒業生とともに、小さなワークショップを開催する計画を立てている。 【論文】本研究と関係する論文としては、Hoeflichkeit und ihre Kehrseite“ Claus Ehrhardt / Eva Neuland (Hrsg.): Sprachlieche Hoeflichkeit Historische, aktuelle und kuenftige Perspektiven, Narr Attempto Verlag,121-133. 2017年が出版された。また、2018年5月に出版される『言語文化共同研究プロジェクト』の枠組みにおいて「批判的社会言語学再考」を執筆しており、2018年内にひつじ書房から出版される予定の『断絶のコミュニケーション』という論文集においては、「ヘイトスピーチに関する社会言語学的考察」が予定されている。
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Causes of Carryover |
29年度は、理論的な考察を行い、外国出張を行わなかった。30年度には、ヨーロッパのいくつかの国に出張をして、本研究の内容について何人かの専門家と意見交換をして、共同研究の可能性についても情報交換をする予定である。その際、実質的な調査(街頭で難民受け入れに反対するデモに参加している人々へのインタビュー調査など)も行う予定であり、そのためには、3週間ほど滞在することが必要であるため、29年度に使わなかった分を、30年度に請求することで、やや長期的な出張を可能にしたいと考えている。
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Research Products
(4 results)