2018 Fiscal Year Research-status Report
多言語・多文化社会の言説におけるポライトネスの日独対照社会言語学的考察
Project/Area Number |
17K02726
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 仁 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70243128)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 対照社会言語学 / ポライトネス研究 / ヘイトスピーチ研究 / 多言語主義社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多言語・多文化共生に関するさまざまな言説に見られるポライトネスおよびインポライトネスの問題を、対照社会言語学の観点から分析し、そこで用いられているストラテジーを明らかにすることであり、30年度は実証的な調査を行う予定であった。ところがアモン教授が急病になり、ドイツでの調査を断念し、その代わりに日本における研究会で発表するため、日本における当該の問題についてまとめた。その結果、ヘイトスピーチのような、直接的であからさまな言語表現ばかりではなく、ヘイトスピーチをする人たちをインターネット上で間接的に支持したり、日常生活において「韓国は好きになれない」などのような小さな差別的をする現象の問題を取り上げ、表面的には差別や偏見を示していないにもかかわらず、それらを隠蔽する言語表現があることを明らかにした。たとえば、それまでの職をやめてもらう非常勤講師に対して「これまでのご尽力に感謝します」といった表現は、一見すると感謝しているようだが、実際は「その後のコミュニケーションの拒絶」という役割を果たしており、そのようなストラテジーに対して、怒りをぶつけるのではなく、客観的に事態をとらえることが肝要であることなどを示した。また、「女性が活躍できる社会」というスローガンや「高度人材」という表面的には美しい表現の背後にも、男性社会の尺度によって女性の活躍を測る姿勢が見えたり、「高度人材」もしくは「実習生」という表現を用いながら、実体としては「外国人労働者」に過ぎないという問題が存在するなど、さまざまな隠蔽がなされていることなどを明らかにして、ドイツ人と議論した。その一部についてはすでに、「断絶のコミュニケーション」という編著の中の論文として発表した。また、イタリアのウルビーノ大学においても講演を行い、クラウス・エアハルト教授とこの問題について議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定としては、ドイツにおいて実証的な調査を行うつもりであったが、受け入れてくださる予定のアモン教授が急病になってしまった。そのためドイツにおける調査を行うことはできなくなった。とはいえ、顕在的な罵倒を表明するヘイトスピーチのようなインポライトネスではなく、表面的には問題が見えにくい潜在的な言語表現について明らかにすることができた。それらが差別や偏見を隠蔽していることを指摘し、そんな潜在的な言語表現の方が、ヘイトスピーチのような顕在的な罵倒語よりも危険であり、研究の課題としては重要であるという認識に至った。これについて早稲田大学のヨアヒム・シャルロート教授が行ったInvectivity, A new paradigm in cultural studiesという研究会において、さまざまな分野のドイツ人研究者と議論することができた。この研究会には、主として、ペギーダなどが活発な活動をするドレスデン大学の研究者が集まり、アメリカのトランプ大統領の言語表現やドイツのAfDの政治家であるビョルン・ヘッケの言説について、世界的な罵倒語の蔓延について議論がなされた。その研究者らとの議論によって本研究の方向性の是非を確認したところ、たしかにそのような潜在的な言語表現がより重要であるというコメントを聞くことができた。そのため、この方向で、引き続きドイツにおける具体的な差別や偏見を隠蔽するさまざまな言語表現を明らかにしてみたいと考えている。そのため、おおむね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、8月26日から8月29日までアジアゲルマニスト会議が開催され、そこでも本研究の成果について発表する予定である。また、中国の研究者からも9月にポライトネスの問題について講演をするよう依頼されているため、夏に渡独することはできない。そのため、前年度に行うことのできなかった実証的な調査は、2月か3月にベルリンの野呂氏などに協力を仰ぎ、ベルリンもしくはドレスデンなどで実施することになると思われる。もともと31年度の予定としては、調査結果を踏まえて暫定的な結果を論文の形にするというものであったため、これについてはすでに準備を行っている。つまり、これまでの成果をもう一度まとめ、口頭でも発表し、理論的な側面を強化し、30年度にできなかった調査を行い、そのまとめをする予定である。
|
Causes of Carryover |
予定していたドイツにおける調査をおこなうことができなかったため、旅費の分を消化することができなかった。イタリアにおいて講演を行い、オーストリアにおいて学会に参加したものの、短期間の滞在であったため調査の実施には至らなかった。
|
Research Products
(3 results)