2020 Fiscal Year Research-status Report
多言語・多文化社会の言説におけるポライトネスの日独対照社会言語学的考察
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17K02726
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 仁 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70243128)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ポライトネス / インポライトネス / 隠蔽機能 / 多言語社会 / 多文化社会 / 多言語共生 / 多文化共生 / 社会言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年2月には、柿原武史、仲潔、布尾勝一郎らとともに『対抗する言語―日常生活に潜む言語の危うさを暴く』という論文集を三元社から刊行し、その中に「怒りの隠蔽―聞き手に怒りをもたらす言語機能について」という論文を発表した。これは本研究の目的である多言語・多文化共生に関するさまざまな言説にみられるポライトネスおよびインポライトネスの問題を、日独対照社会言語学の観点から分析し、そこで用いられているストラテジーを明らかにするという研究目的と直接的に関係する成果であり、この議論を発展させ、20202年7月にイタリアのパレルモで開催予定であったIVGで発表するつもりであった。ところが、このゲルマニスト会議はコロナの影響で延期され、2021年7月に同じくイタリアのパレルモで開催予定のIVGで発表するつもりである。ここでは、Claus Ehrhardt及びRita Finkbeinerらと語用論のセクションを主宰する。また2019年4月2日に早稲田大学で開催されたInvectivity: A New Paradigm in Cultural Studies?という国際的ワークショップでも、Die Invektiven verschleiernde Funktion der Spracheというドイツ語の発表を行った。この研究会には、日本におけるポライトネス研究の第一人者ともいえる井出祥子なども参加し、当該の研究にコメントをしてくださったため、それを踏まえる。さらに、本研究の一部は、2019年8月27日に札幌の北海学園において開催されたアジアゲルマニスト会議でも、ドイツ語で発表し、アジアの複数のゲルマニストなどと議論した。この時には、2001年の段階でGino Eelenの論文を紹介したManfred Kienpointnerなども参加し、本研究のテーマについて議論する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、申請者は1冊の社会言語学に関する書籍を刊行した。その際、批判的談話分析の手法を用いて、さまざまな言説を分析し、ドイツ語や社会言語学を専門とする研究者との情報交換を通して、ドイツと日本における一般の人々や政治家の談話や新聞報道を対象として、いかなる現象がポライトもしくはインポライトと解釈できるかを対照社会言語学の立場から分析し、そのストラテジーを解明しようとしてきた。また、2020年2月には韓国のソウル大学でSeong教授らと研究会を開き、今後、この分野で共同研究を行うことも決定した。現時点では、新型コロナウイルスの感染者数が拡大しているため、研究会はおろか、ドイツや韓国に行くことさえままならない状況であるため、本研究が計画以上に進展しているとは言えない。また、昨年度は『コロナパンデミックは、本当か』という本がドイツでベストセラーになり、ドイツ政府の政策に異を唱える研究者や若者はデモ行進を行っているような状況がある。そのような状況下で、メルケル首相の言説を批判するような研究も見出すことができた。この分野は現在も進行中の出来事なので、何が正しいのかわからないが、IVGの参加者などとの情報交換や韓国のソウル大学のSeong教授らとの共同研究を通して、コロナと多言語・多文化共生との関係についても考察してみたいと考えている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると判断することができると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年の7月から8月にかけて、イタリアのパレルモでIVG(国際ゲルマニスト会議)が開催される。イタリアにおけるコロナ感染者数の状況は好転しているため、現在、この会議は原則的には現地で開催される予定であるが、日本の状況が悪化しているため、イタリアに行くことはできないかもしれない。その場合は、オンラインでの参加に切り替える。語用論のセクションを運営しているウルビーノ大学のEhrhardt教授やマインツ大学のFinkbeiner教授とは定期的に連絡を取って、この会議に出席する研究者とも連絡をとり、この会議の後に研究書を刊行する準備を進めている。また、上述のとおり、ソウル大学のSeong教授とは、2021年の9月、もしくはコロナの影響でそれが難しい場合は、2022年の1月に大阪大学で共同研究発表会を開催する予定である。この研究会にはドイツからStefanie Haberzettl教授を招くつもりであるが、ドイツから日本に来日できない場合はzoomで参加してもらう予定である。この日韓ゲルマニスト研究の内容は、本研究とも密接に関係するものであり、Seong教授以外にも韓国ソウル大学のKo教授らも参加する。Ko教授は、2019年に札幌で開催されたアジアゲルマニスト会議でもお会いしており、共同研究の基礎はととのっていると思われる。現時点では、「やさしい日本語」という日本語の変種などに関する研究がなされており、そこに見いだせる差別や排除の可能性などについて、ドイツ語版のleichtes Deutschなどと比較しつつ、そこで用いられているさまざまなストラテジーなども分析していく予定にしている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染者が拡大し、日本でも緊急事態宣言がでて、当時イタリアやドイツでも感染が拡大したため、2020年にイタリアのパレルモで開催が予定されていた国際ゲルマニスト会議が延期されてしまった。当初、本研究の成果をこの大会で発表する予定にしており、旅費や滞在費もこの助成金から支出しようとしていた。この大会が、2021年に延期された。他のセクションなどは取りやめるところもあったが、本セクションの他の研究者とも相談したところ、このセクションは延期して開催することにしたため、2021年には、そこで発表することにした。そのための旅費や滞在費をまかなうために延長を申請した次第である。
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Research Products
(1 results)
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[Book] 対抗する言語2021
Author(s)
柿原武史、仲潔、布尾勝一郎、山下仁
Total Pages
390
Publisher
三元社
ISBN
9784883035236