2021 Fiscal Year Research-status Report
多言語・多文化社会の言説におけるポライトネスの日独対照社会言語学的考察
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17K02726
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 仁 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70243128)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会言語学 / ポライトネス研究 / 対照社会言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、イタリアのパレルモで行われた国際ゲルマにスト会議の対照語用論のセクションにて発表を行い、当該のセクションのチームリーダーとして、その国際会議の報告書の編集にもあたった。申請者のこの発表の内容は、新型コロナウイルスと協調的ではないコミュニケーションの存在の関係を記し、コロナウイルスの影響についてクルマスが行ったアンケートの結果を紹介し、さらに、日本の菅義偉首相の評価と、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相が2020年の3月18日に行った演説から、日独両国で協調的ではないコミュニケーションが存在することをを確認した。最後に、協調的ではないコミュニケーションがポライトネス理論やグライスの協力の原則を用いて分析することが可能かどうかという問題を取り上げた。その意味で、この発表は本研究の目的とも深く関係するものであり、研究実施計画に記したものの一部でもある。ただし、国際会議自体がコロナ禍により1年遅れ、しかも対面での参加はかなわず、オンラインでの参加となった。とはいえ、この発表により、協調的ではないコミュニケーションについて考察するためには、理論的に議論するのではなく、現実を出発点とすること、フーコーの装置概念が有効であろうことなどについて考察を進めることとなった。また、『ことばと社会 23号』の責任編集委員として、コロナ禍における社会言語学のあり方について特集をした「パンデミックの社会言語学」を編集した。そこではパトリック・ハインリヒとともに序論として「パンデミックの社会言語学――現在の課題とこれからの展望」を記した。そこでは、ドイツ統一から30年たった今日、国家の存在が強まり、デジタルトランスフォーメーションが加速したという実態を報告した。これは多言語社会のあり方の変化について述べたものであり、本研究とも深く関係する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度からのコロナ禍により、2021年度もドイツやイタリアなどに渡航することができなくなり、研究会や国際学会などに対面で参加することができず、研究の打ち合わせも行うことができなかった。そのため、現在までの研究の進捗状況は、予定通りにいっていないことは否めない。確かにオンラインによって、国際会議などに参加することはできるのだが、具体的な内容や研究計画についてオンラインで議論することには限界を感じている。他方、パンデミックにせよ、ウクライナ戦争にせよ、コミュニケーションが必ずしも協調的ではないことを示すものではあるため、これらの事件は本研究の枠組みにおいて多言語社会におけるポライトネスの射程を考察する上では、図らずも、ある意味では恰好の材料を提供しているともいえる。つまり、なぜ、世界中でおなじウイルスによって被害が生じているのに協調せず、対立してしまうのか、といった問題意識である。なお、本研究と直接的に関係するポライトネスに関する論文集の出版を計画している。これには柳田亮吾、大塚生子らとともに編集委員の一人として関与しており、出版社(三元社)とも議論をかさね、出版の承諾を得た。その内容に関しては、高木佐知子のようなフェアクラフの専門家とともに、論文を執筆し、編集する過程でさまざまな議論を交わしている。この論文集は今年度中には出版される予定である。さらに、韓国国立ソウル大学のSeong氏らとも国際会議を開く計画もたてており、コロナ禍が落ち着いた場合には、日本と韓国とドイツの研究者による国際会議を9月に大阪大学とソウル大学で開催するつもりである。ここでも、なぜコミュニケーションがうまくいかないのか、という問題をポライトネスの観点から議論する予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍とウクライナ戦争という事件によって、ヨーロッパに行くこと自体が可能かどうかまだ未知数であるが、可能であればドイツもしくはイタリアに行き、社会言語学や語用論の専門家と議論をする予定である。また、ポライトネス関係の論文集を企画しているため、この論文集を本研究の成果にするべく、議論を重ねていく。すでに、2022年の4月3日には、阪神ドイツ文学会の研究発表会において「ジークフリート・イェーガーの装置分析」という題目で、研究発表を行った。これは、ミシェル・フーコーの装置概念を批判的談話研究の中に取り入れたジークフリート・イェーガーの試みを取り上げ、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)のテレビ演説を批判的にとりあげた野呂香代子の論考について議論したものであるが、そこではフェアクラフやフーコーなどの理論をまとめ、これまでのポライトネス理論やグライスの協調の原理などの語用論的な議論に限界があることを論じた。その限界をフーコーの装置概念を用いて克服することができるのかどうかが今後の考察の中心となると思われる。とはいえ、現時点では「装置」という概念があまりにもとらえどころがなく、方法論上の難しさに直面している段階である。この問題を他の研究者との共同研究で議論する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた渡独を次年度に延期したため。
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Research Products
(3 results)