2018 Fiscal Year Research-status Report
ハワイ・クレオールの文法的変異の社会的及び言語内的要因
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17K02736
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
井上 彩 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (90634915)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クレオール / ハワイ・クレオール / 言語変異 / 言語変化 / 文法的変異 / 補文標識 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の第一義的目的は、米国ハワイ州で使用されている、英語を基礎語彙とするクレオール言語であるハワイ・クレオール(HC)の文法的変異のうち、過去時制マーカーと補文マーカーの変異について社会言語学の変異理論の研究手法を用いて記述して、変異の要因となる言語外的(社会的)要因と言語内的要因を探求することである。また、HCの話者がHCと標準アメリカ英語について持っている言語的イデオロギーおよび言語意識がどのようにHCの使用に関わっているかを分析することが第二の目的である。 平成30年10月には第8回日本メディア英語学会年次大会で、メディアにおけるHCの使用について話者の態度をインタビューのディスコースから考察する論文Linguistic Attitudes towards the Use of Pidgin (Hawai‘i Creole) in the Media を発表し、学会参加者から貴重な建設的批判、参考文献をいただいた。当研究はさらに平成31年2月に北米エスニシティ研究会2月例会にて「メディアでのハワイ・クレオール: 話者のインタビューを手掛かりに」として発表した。この研究はLinguistic Attitudes towards the Use of Pidgin (Hawai‘i Creole) in the Media として愛知県立芸術大学紀要に掲載した。平成30年9月には補文マーカーの分析の準備のために、国外の研究協力者とハワイ大学にて研究打ち合わせを行った。これに基づいて平成31年3月にはシンポジウムEnglish in Contactにおいて補文マーカーに関する論文Describing for complementation in current Hawai‘i Creole speechを発表し、参加者よりフィードバックを得る機会を持つことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
過去時制マーカーの変異についての研究の目的はこれまでの成果を踏まえて、動詞の形態的カテゴリーとの相関を詳しく再分析し、この強い相関の原因がどこにあるのかを探ることである。平成29年度は、再分析の結果を学会で報告し、有益な助言をいただいたが、平成30年度中にはその成果を論文にまとめる作業が終えられなかった。 補文マーカーの変異については、コピュラについて行ったのと同様の分析を行い、変異のパターンを量的に分析して変異の言語外的(社会的)要因と言語内的要因を明らかにすることが目的である。平成29年度に英語系クレオール言語の補文マーカーの文法的記述と変異に関する文献を収集し、29年度と30年度にハワイ・クレオールの母語話者である研究協力者と文法性判断について行った研究打ち合わせに基づいて、30年度3月にHCにおける補文マーカーの使用を記述する研究を発表することができた。これについては順調に進んでいる。 文法的変異の話者の認識における文法的変異についての研究を平成29年度に得た知見をもとにその成果を論文にまとめる予定であったが、遅れている。しかし、HCのメディアでの使用に関する言語態度を話者のインタビューデータから分析する研究がまとまったため、こちらを論文として出版することができた。 やや研究が遅れているのは、本研究課題の二義的目的である言語態度の研究(HCのメディアでの使用に関する言語態度の研究)にも時間をかけたことにより、予定していた研究内容が遅れたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度には、過去時制マーカーの変異に関しては、平成29年度に国際学会で発表した内容を論文にまとめる予定である。また、文法的変異の話者の認識における文法的変異についての研究も、平成29年度に得た知見をもとにその成果を論文にまとめたい。 補文マーカーの変異については、コピュラについて行ったのと同様の分析を行い、変異のパターンを量的に分析して変異の言語外的(社会的)要因と言語内的要因を明らかにすることが目的である。平成29年度の文献収集し、29年度と30年度の研究打ち合わせに基づいて、30年度3月にはHCにおける補文マーカーの使用を記述する研究を国際シンポジウムにて発表することができた。その結果予測に反して補文マーカーの使用に関しては変異がほとんど見られなかったため、変異のパターンを量的に分析するという手法はこの現象の分析手法としては適切でないということがわかった。しかし、変異が見られないということが多くの話者に一般的に見られる現象だとすると、そのことはクレオール連続体をめぐる理論的な問いに大きな意義を持つこととなる。新たな視点で研究の問を立て直して平成31年度にさらに研究をすすめたい。 最終年度である平成31年度には補文マーカーの分析を完了し、研究成果を国内外の学会・研究会で報告して、結果についての考察を深めたい。具体的には12月に研究協力者を招聘して成果報告と質疑応答のためのワークショップを開催し、さらに研究打ち合わせをすることによってその後の研究論文執筆へとつなげる予定である。
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Causes of Carryover |
H30年度に参加した国際学会は国内(九州大学)で開催されたものであったために旅費を大幅に節約することができた。H31年度には国外から研究協力者を複数招聘して研究成果報告のワークショップと研究打ち合わせを行う予定であるためその費用として使用する計画である。
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