2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K02737
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
渡辺 真澄 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (60285971)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 動詞活用 / 膠着語 / 一貫性 / 語彙情報 / 文字種 / 非語動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの研究で、膠着語である日本語は、活用がきわめて単純な英語(屈折語)とは異なり、活用は規則的だが活用の種類が著しく多く、非語動詞の成績が低いことなどを見出したが、実験結果が不安定であった。これを踏まえ、若年健常者を対象に動詞の過去形生成課題を行い、以下について検証した。 ①活用一貫性の影響。基本形の語末が「る」の動詞は活用が一貫しない(着る、切る)。これと、活用が一貫する動詞(話す、転ぶ)の成績を比較した。②活用形が同じ友達/仲間の多寡(type frequency)の影響。③非語動詞を用い意味/語彙情報の与える影響。④刺激の呈示モダリティーの影響。従来の英語などの動詞活用実験では、動詞を文字呈示している(look→looked)。日本語の動詞は、a)漢字と仮名(歩く)、b)平仮名だけ(ずらす)、c) 片仮名と平仮名(ググる)で書くものがある。音読、語彙判断では文字種による成績差があるが、動詞数は少ないため、同一文字種の刺激を用いることは困難である。私たちは条件を揃える目的で、動詞を片仮名書きし(アルク,ズラス,ググル)、実験を行ったが、より自然と思われる音声呈示の実験も追加した。 実験の結果、ア)片仮名呈示に比べ、音声呈示では誤りが少なく(特に非語動詞で顕著)、片仮名呈示の不自然さが明らかとなった。音声呈示での結果は、イ)一貫性効果が認められた。動詞の活用形は語尾拍により決まるが、活用が一貫する動詞(語尾拍が「る」以外:話す、転ぶ)は、語尾拍が「る」の非一貫動詞(切る、着る)より活用が速く,誤りが少なかった。非語動詞では、ウ)type frequency効果が見られ、エ)元となる実在動詞を想起しやすい非語動詞は、想起困難な非語動詞より誤りが少なかった。これらの結果は、動詞活用が規則ではなく,語彙情報(音韻/意味表象)に基づき行われることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
私たちは、研究の申請を行った時点では、膠着語の日本語の動詞活用も、屈折語の英語と同様に、規則活用(多数派の五段)と例外活用(少数派の一段)に分かれ、学習回数の多い多数派の動詞活用が容易(活用潜時が短い)と考えていた。 日本語の動詞活用は、語幹が母音で終わる一段動詞では、基本形、タ系語尾とも非常に規則的である。しかし語幹が子音で終わる五段動詞の基本形では、丁寧形や否定形などの形態素が後続する際に、子音連続を避けるため、母音の挿入や、後続形態素の初頭子音の消去などが生じ、規則的ではあるが後続形態素に依存した多様な活用パタンが生じる。さらに過去形に代表されるタ系語尾では、活用が語尾拍毎に異なり、語幹の変化が生じるだけではなく、子音連続を避けるため母音挿入や初頭子音の消去も起こり、活用がきわめて複雑で、五段動詞としてのまとまりが希薄である。 こうした多岐にわたる活用パタンをもつ動詞を、単純に規則(五段)と不規則(一段)に分けても、先行研究の実験結果を説明することは困難であろう。新たな枠組みが必要であった。詳細な検討の末、日本語の動詞活用を活用の一貫性と、 同じ活用パタンをもつ仲間/友達の数(type frequency)で分類することにした。また実験結果の再現性の低さは、刺激の片仮名呈示の影響があると考え、その点も検討し、一定の成果を得た。 研究の枠組みを再考し、振り出しに戻したため、研究は予定通りには進まなかったが、今後、研究を飛躍させるための礎は築けた。その意味では有意義な一歩を踏み出すことができ、つぎの実験が待ち遠しい。 今回の実験の新しい枠組み、結果などについて、3月初めに英国ケンブリッジにて研究協力者4名(内、2名は英国ケンブリッジ大学所属)で議論する予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため、とりやめざるを得ず、次回に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度に行えなかった申請者と研究協力者3名の計4名による、実験に関する議論を行いたいと考えているが、新型コロナウィルスの世界的規模での感染拡大がいつ収束するのかを見通せない状況にあるため、他の方法も検討したい。刺激を音声提示した動詞活用課題の追加実験を行いたいが、密室(防音室)での実験になるため、やはり先が見通しにくい。
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Causes of Carryover |
理由:上述のように、令和元年度に研究協力者4名で実験結果の議論を英国にて対面で行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため、次年度に持ち越すことになった。 使用計画:Lambon-Ralph教授、その他の研究協力者との議論のための旅費、滞在費などに使用する予定であるが、状況によっては変更の可能性がある。
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Research Products
(4 results)